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先ずは読んでみて

2019年5月、津原泰水氏のツイッターが騒動のきっかけでした。“百田尚樹氏の著書『日本国紀』(幻冬舎)を批判したことで、自作の文庫本の出版が急遽取りやめになった”というつぶやきが火種となり、幻冬舎の見城社長がツイッターで津原氏の書籍の「実売晒し」を行いました。

当然炎上し、出版業界を巻き込む大問題に発展します。

その後、文庫本は早川書房で刊行・販売されるのですが、編集者の思い切った帯で書店に並び、再び賛否両論を生みました。

文庫本の出版を取りやめになり、単行本の実売を晒され、話題の帯で別の出版社から刊行された『ヒッキーヒッキーシェイク』。

先ずは読んでみて。

”そんな想いを巡らせるほどに重苦しいものとなり、厭だ厭だと云いそうになる自分がまた厭で…”

『ヒッキーヒッキーシェイク』津原泰水(著)

ポリフォニックな極上のエンターテイメント小説が襲来した。パセリ、セージ、ローズマリー、タイムというコードネームを持つ引きこもり達が、独自の世界観を共有して協力しつつも、時には疑い合い、時には奪い合う“引きこもり集団・ヒッキー達”の物語。

ヒッキーのまとめ役はJJこと、フィラデルフィア・アカデミー看護学校卒・天然心理流師範の引きこもり支援センター代表・竺原丈吉。そもそも、そんな師範は存在しない。限りなく詐欺師に近い怪しさ満載のJJから、選ばれし引きこもり達に集合がかかる。繊細ゆえに学校に馴染めず不登校なままの中学生・苫戸井洋祐、ハーフで白人そのものの容姿を持ち、その周囲との違和感が裏目に出て高校から足が遠のき卒業の年を迎えてしまった乗雲寺芹香、エリートの一人息子が再就職も結婚もできずに三十路を迎え、両親からは粗大ごみ扱いの引きこもり・刺塚聖司だ。そこに天才ハッカーのローズマリーが加わる。互いに現実に存在している人物なのか。疑いつつも、出会うことなく親交を深める。彼らに与えられたミッションは「不気味の谷」を超えること。「アゲハプロジェクト」の始動だ。

途中からUMA(未確認動物)の捏造、町おこし計画、など主軸となるストーリーがさまよい出すが、ラストに向かってアゲハプロジェクトの目的は回収されるのでご安心あれ。

パセリ、セージ、ローズマリー&タイムはイギリス民謡「スカボロー・フェア」からなる。サイモン&ガーファンクルの名曲として一度は耳にしたことがあるはずだ。本書はそんな随所に挟む小ネタも魅力の一つだが、JJと引きこもり達の会話のキャッチボールが、おそらく本書の旨みだろう。重からず、遠からず、読者の気持ちに響いて余韻を残す。心情の表と裏をちらつかせ際限なく続くテンポの良さと、スタイリッシュなリズムに乗った心の機微が不思議な爽快感を生む一冊。

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