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貢ぐ女

とある高校の学園祭へ遊びに行った時のことです。学校のお祭り騒ぎムードとは違い、校内の図書館は悲哀に満ちた異空間でした。その片隅に“ご自由にお持ち帰りください”と書かれた段ボール箱がひっそりと佇んでいて、役目を終えた本達が無造作に重なり合っていました。汚れの目立つ本なのか、それとも時代遅れとして処分の対象になったのか。もしかすると数年間のうちに一度も貸出が無く、廃棄本と判断されたのかも知れません。本書は、その段ボール箱にあった一冊です。カバーもなく、傷みも激しく、ちょっぴり古い本。そこが自分によく似ていると感じたことが読むきっかけになりました。今では我が家の本棚に置かれています。

ところで、あなたは貢いだことはある?

“男がとことんもてて惚れられるのは、情事でも外見でもない。男の姿勢なのだ。”

『貢ぐ女』山口洋子(著)

1937年生まれ。女優・銀座のクラブ「姫」の経営者・作詞家と、幅広い分野で成功を収める。1985年更に作家活動において『演歌の虫』『老梅』で直木賞を受賞する。懸命に生きた彼女は女心を描く名手でもあった。

泰子は愛する男に貢いで、貢いで、貢ぎまくる。男と一夜を共にするホテル代から煙草ひと箱にいたるまで泰子がすべて支払うという徹底ぶりで、その総額はゼロが六つの百万円代では済まなくなっている。そのなし崩しに注ぎ込む様子は、銀座のホステス時代から地道に貯めたお金でBAR「泥の花」をオープンさせた泰子らしくないものだ。元来、几帳面さをもつ彼女がなぜそこまで惚れた男に貢ぐのか。

その理由は信太郎の魅力の一言に尽きる。この男、今で言うダメンズの王道をいくタイプである。作詞家としての一定の収入源もないのに、麻雀や競馬に金を使い、女癖も悪い。しかし、野性的かつ繊細さを纏った男のしぐさや一言は危うさの境界線をなぞる。打算的な行動など一切なく、そこが女心をくすぐるのだ。

信太郎と付き合い始めて二カ月ほど後から、泰子は密かに一冊の赤皮の手帳を持つようになる。その中には一円たりとも洩らさずに信太郎に貢いだ金額が赤のボールペンで書かれてある。もし信太郎がこの手帳の存在を知ったなら、自分のみじめさゆえに怒りを爆発させて、二人の仲は終わりになるだろうと泰子は思う。そんな不安を抱えて秘密の手帳を慎重に扱い、貢いだ金額を書き続ける。

物語のラストで、泰子は信太郎にあっさり振られる。若い女とニューヨークで永住するという。そして、信太郎の最後にとった行動から泰子は気付くのだ。

”男に貢がせてもらっていたと。”

お見事!信太郎!

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