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いますがごとく

年末の出来事なのですが開高健さんのお墓参りへ行ってまいりました。心を鎮め、整えるために、です。行くたびに違う印象を受けるこの場所に佇むと、例えようのない感情が湧いてくるのがわかります。雑念を払いのけ、新たな一年を迎えることができました。釣り好きで美食家だった開高さんのお気に入りの一冊をご紹介します。

“陽は沈み、日はまた昇る。われらふたたび、いつの日にか。”

『オーパ!』開高健(著)

1930年大阪生まれ。1952年詩人・牧羊子と結婚。後、寿屋(現サントリー)宣伝部で洋酒のコピーライターとして一時代を画す。『裸の王様』で第38回芥川賞を受賞。また南ベトナム軍に従軍し凄烈な体験を基に書かれたルポ『ベトナム戦記』はベトナム戦争の本質を伝える。

どう書き始めたらいいのだろうか。どう書き終えていいのかもわからない。ふと“自由に書いたら?”と頭の中でつぶやいた人がいた。開高健だ。

本書は現実から逃げたくなった時に読む本。写真を眺めては読んでの繰り返しで、じんわり、じわるブラジル・フィッシングの旅行記。コピーライター、小説家、ノンフィクション作家、という肩書の開高健が筆をとり、繊細に絡まり合う。釣りの醍醐味や現地の人たちとの交流を包み込むように伝える。そんな語りに居心地の良さを覚え、読む者はしばらくアマゾン河川へ滞在することとなる。無駄をそぎ落とした簡潔な文章で、その旅であったことのすべてを知る。言語、文化、食生活の違い、生や死について。

迫力ある写真がふんだんに盛り込まれ、飽きることがない。常に鋭く強力なピラニアの牙、2メートルのミミズ、アマゾン河口で暮らす人々の瞳、瞳。『オーパー』になくてはならない写真家・高橋昇のシャッターの音は絶えない。見たものすべてを写真におさめる。中でも開高さんの釣りのシルエットは美しい。コンピューターグラフィックでは決して描けないラインは貫禄体の男性の色気までも写し出す。

現地であった出来事を深い教養で軽やかに笑いとばす彼の文章を読むと、興奮と感動の先にある深い沼に落ちることがある。比類なき物書きとしての才能をまざまざと見せつけられ、その素養の深みに抜け出せなくなるので要注意。それでいて誰でも楽しめる娯楽作品の最高峰ともいうべき読み物。

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