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書評『流れとかたち』KURI

その本に取り組むべき最高到達点が到来した。積読8年目にしてようやく読む気になった本書。昨年の2019年に続編『流れといのち』も出版され、そのタイミングで著者は来日も果たしている。時代の流れに遅れること8年。面白い本であることは重々承知で放置していた自分に呆れるべきか、手放さずに本棚に置いていたことを褒めるべきか。漬けるに漬けて熟成された本書は示唆に富んだ一冊であった。

1995年9月下旬、フランスで開かれた国際会議の晩餐会前に行われた講演会がきっかけだった。ベルギーのノーベル化学賞受賞者のイリヤ・プリゴジンは科学界の定説に習い、こう述べる。「自然界において豊富にみられる樹状構造のようなデザインの根底は、何の根拠もなく、壮大な偶然の一致だ」と。

何の根拠もない壮大な偶然の一致、そうだろうか。

…細分化による全体像の欠如?著者の脳裏に稲妻が走る。河川の流域や肺の気道、稲妻などの形状は偶然などではなく自発的に表れるのではなかろうか。全ては流れを促進するための効果的な構造であり物理的法則が存在するはずだ、と。樹状構造だけではない。メカニズムが明らかでない雪の結晶や、葉脈に描かれる美しいパターンの形成など、自然が生み出すあらゆるデザインはたった一つの物理法則で成り立っている、として著者が説いた法則は、以下となる。

“有限大の流動系が時の流れの中で存続する(生きる)ためには、その系の配置は、中を通過する流れを良くするように進化しなくてはならない。

この新たな物理法則は、効率性を追求することを前提に考えた場合、万物のデザインに適用できるとし「コンストラクタル法則」と定めた。

血管系の流れや交通網、軍隊の指揮命令等まではコンストラクタル法則の範囲内であると予測はつくが、章が進むにつれて進化の過程にまで言及する。適用範囲が広いのがコンストラクタル法則の特徴である。地球の歴史を通してどの生物が生き延びて進化したかは、偶然に左右されてきたとされる。46億年もの間に地球が生み出したデザインは偶然の産物かも知れない。しかし進化の方向性として普遍的な法則があるとも言える。人類に例えてみよう。人間が四足歩行から二足歩行になった理由は、疑似的車輪運動の最良のかたちであり質量を移動させるのに理想的な運動様式、すなわち、より良い流れのデザインの結果である。ということは今後人間が進化し続けても一本足で歩くことはないはず、と理解できる。こういった未来の予想が可能なのもコンストラクタル法則の特徴と言える。本書はその証明を丁寧に説いているのだが、物理学だけに若干難易度高めと感じるのは私だけではあるまい。しかし本書には理解不能な方程式であっても読み進められる魅力がある。知的好奇心をくすぐる一冊だからだ。

幼少期は北国で生活を送っていた。冬の窓ガラスに落ちた小さな雪の結晶を観て感動したことがある。自然が生み出すデザインは知性を持たない。そこには理屈抜きの美しさが存在する。

【投稿者】KURI

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