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講演会へ行ってきましたKURI

紫式部(著)『源氏物語』アーサー・ウェイリー版、毬矢まり、森山恵(姉妹訳)と言う本がある。

紫式部の書いた『源氏物語』をアーサー・ウェイリーが英語に翻訳し、そのアーサー・ウェイリーが訳した『源氏物語』を毬矢まりえ・森山恵の姉妹が日本語に翻訳した『源氏物語』である。

そんな早口言葉のような複雑な翻訳作業を“戻し訳”と言うそうだ。紫式部が生きた平安時代、アーサー・ウェイリーの生きた大正から昭和の時代、そして現代。国境を渡り時代を越えた『源氏物語』は戻し訳ならではの多層的な言葉の世界が広がる物語となり完成した。

それにしても、、、『源氏物語』は世界最古の物語と言われており、現代語訳にすると軽く3000ページを超える超大作で登場人物は400人を超える。いやはや、完読するのにも一苦労なのに翻訳するとは!私はいくつ命があれば、そんな偉業を成し遂げることができるのだろう。

そんな姉妹の講演会があるというので拝聴してきた。2022年6月4日、神奈川近代文学館において行われた 生誕100年 ドナルド・キーン展の記念講演会「世界文学としての『源氏物語』 ドナルド・キーンの運命を変えたアーサー・ウェイリー訳」。アーサー・ウェイリーは雨男だったようだがこの日は晴天に恵まれた。

お話はアーサー・ウェイリーに関することと翻訳作業に関することが主だったように感じた。興味深いお話をたくさん聞くことが出来て大満足だった。

■アーサー・ウェイリーに関すること

・アーサー・ウェイリーの経歴…このころ既に左眼の視力を失っていたのですね。

・アーサー・ウェイリーの「あはれ」や「和歌」の訳の多層性について…そのシーンごとに素晴らしい訳をしていると大絶賛でした。

・アーサー・ウェイリー訳に「鈴虫」がないのはなぜか?…今も謎のようです。姉妹は原稿が紛失しただけなのでは?と考えているようです。

・アーサー・ウェイリーのお気に入りの巻…「賢木」の野宮の別れと仰っていたようです。

・アーサー・ウェイリーとドナルド・キーンの仲…年齢が離れていたにもかかわらず二人は尊敬し合う良い仲だったそうです。

■翻訳作業に関すること

・ルビやカタカナ表記に関するエピソード…日本語、カタカナ、古語、漢字、その混合型の言葉をそれぞれのイメージに合うように使い分けたそうです。

・翻訳するのに一番大変だった帖…宇治十帖の「薫」。宇治十帖は精神性の物語になるので、悩み深き薫の心の表現に悪戦苦闘したとのことです。

お話の中で特に印象に残ったのは「翻訳していて常に心がけていた点」だ。世界文学としての『源氏物語』を念頭に置いて、流麗で美しい日本語に訳したかったと言っていた。言葉は多くのイメージを纏っていて、その言葉の大きな渦の中に溺れることなく、ひとつひとつ話し合いながら納得のいくまで言葉を選び、二人で決めていったと語る。特に「エンペラー」は最後まで悩んだらしい。また、『源氏物語』は語りの物語だということを常に意識したとおっしゃっていた。そして姉妹は、アーサー・ウェイリーの翻訳に誤訳は一切ない、光源氏をシャイニング・プリンスと訳すなど、その発想と想像力の深さに感動の連続だったので最後まで飽きることなく訳すことが出来たと、何度も何度も語っていた。

また、驚くことにこの翻訳は出版社側からの依頼ではなく、自分たちで出版社へ持ち込んだ企画だそうだ。多くの出版社に断られたが、左右社だけが「全訳するという条件でよければ書籍化します」と言ってくれたそうだ。装丁にクリムトの作品を選んだのも妹さんとのこと。ジャポニズムを愛しゴージャスを極める作風のクリムトは『源氏物語』にピッタリだ。1から4巻の全てに独創性もあり美しい仕上がりとなっている。姉妹のアーサー・ウェイリー版『源氏物語』に対する熱量は半端ない。

平安時代は女性が活躍できた稀有な時代であり文化や芸術が花開いた奇跡の時代と言える。その平安時代の紫式部による『源氏物語』は戦争のない美しい世界を描く。国境を渡り時代を越えて永遠に輝き続ける作品なのだと感じた。

【投稿者】KURI

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