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書評『 なぜ私だけが苦しむのか 』KURI

素晴らしい一冊。

ユダヤ教徒のラビである著者は他人の悩みに対して経験豊富。あらゆる人々の気持ちに寄り添う姿勢を崩さずに「神とは?」「人生とは?」などの、本作品の全ての問いに真摯に取り組んでいる。全文に「心の通った丁寧な文章」と言う印象を感じる。

そして 著者自身も生まれ持った息子の難病と闘い、息子の短い人生を受け入れなくてはならない悲劇が襲う。息子・アーロン君の病気にどんなに苦しめられたか計り知れない。そしてアーロン君とのお別れはどんなに辛かったのだろうか。


最終章の”もし選べるものなら、息子の死の体験によってもたらされた精神的な成長や深さなどいらないから、15年前に戻って、人を助けたり助けられなかったりのありきたりのラビ、平凡なカウンセラーとして、聡明で元気のいい男の子の父親でいられたら、どんなにいいだろうかと思います。”のところで涙が止まらなくなる。


この実体験からの「なぜ私だけが苦しむのか?」の問いである。著者の想いが全文に感じられ、打ちのめされてしまった。




また、「生と死」自体は善でも悪でもないと言う考えや、人生に公平を期待しないことなど、あらゆる面で達観している印象がある。しかしお説教のように感じないのは何故なのか。本書の魅力がそこにあるのだろう。


現代のヨブ記と言われる本書の肝は、p54の三つの命題の矛盾点をどう解釈するのか、だと考察する。


1.神は全能である

2.神は正義である

3.ヨブは正しい人である


この1.を「苦難や不運は決して神のなさっているものではないし、それを受ける人にそれだけの理由があるからではない。」と言い切り「世の中には理由のないこともある。」と説いている。

神とは苦しみを生き抜く力を与えてくださる存在であるとして「なぜこんな目にあわせるのですか?」ではなく「このありさまを見て、どうか助けてくださいますか?」と問うのが正しいと何度も繰り返し書いていることが理解できる。


私は『カラマーゾフの兄弟』の大審問官に絡めて読むこともできたので、大満足。納得の世界的ベストセラー本!

【投稿者】KURI

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