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書評『星の子』KURI

天高く馬肥ゆる秋、読書の秋が深まるとき。

自宅から徒歩5分にある不動産屋が本を貸し出している。

ビルの入口にある僅かな隙間を利用して本棚を作り、社員の読み終わった本をそこに並べているようだ。営業中に限り“小さな図書館”として開放している。本は自宅へお持ち帰り自由だし、返却期限は原則としてない。嬉しいことに同時に2冊まで借りることができる。

当然、私は仕事帰りに 平日の日課として 立ち寄っている。「毎日、怪しい中年の女が本棚を覗きに来る」と社内で噂されていること間違いないだろうが、そんなことは気にしない。仕事と家庭を繋ぐ間にほっとできる空間があることに感謝して、その日の終わりの楽しみのひとつとして足繁く通っている。

図書館の品揃えは、小説やビジネス書、絵本や詩集などジャンルは様々だが、そこに「社員の顔」が垣間見れる。

おそらく、東野圭吾ファンがいる。やたらと東野圭吾さんの作品が多い。歴史小説を好んで読んでいる人はご両親の影響を受けているのかも知れない。少し前の世代に人気だった作家だから。本屋大賞や芥川賞・直木賞といった話題性のある本を好む人、文庫本や中古本を好んで購入する人、など。機会があれば聞いてみたいと思う。

先日、その図書館から『星の子』を借りた。2017年野間文芸新人賞を受賞した作品で2020年10月に芦田愛菜さん主演の映画が公開される。今が旬の人気の小説だ。本屋で平積みされていることが多く、無料で読めるのは有り難いと思う。著者の今村夏子さんは『むらさきのスカートの女』で2019年に芥川賞を受賞している人気作家だ。

両親に愛されて育つ少女・ちひろ。幼少期に病弱だった彼女の病気を治したいと願う両親がとある新興宗教に入信したことがきっかけで、彼女の常識がその宗教の教えに塗替えられてゆく。そんな日常に何の疑いもなく良識を持って成長するちひろだったが、徐々に自分の身を置いてきた環境に違和感を抱くようになる。思春期の少女の心の機微が細やかに、切なさも絡みながら“愛”が描かれる中編小説だ。

返却時には、メッセージカードを添えた。

「信じるものも、幸福のかたちも、ひとそれぞれです。

そんな自由な世の中で、他者との距離をどのように保てば良いのか考えさせられる一冊でした。

でも、どうか、

純粋な愛を利用する者や、愛という名の暴力を振りかざす者が、この世の中にいませんように」。

【投稿者】KURI

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