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書評『夏の庭』KURI

今年は“夏らしいこと”をしましたか?

その答えは、たぶんYES。だけどNO、と言いたくなる気持ちもほんのり残る。

お盆の際に玄関先で迎え火と送り火を焚いた。また、お寺へ赴き施餓鬼法要を行った。コロナと猛暑の影響からか、寺院のもてなしもどことなく控えめで例年になく早々と帰宅できた気がする。そういった“夏らしいこと”の代表ともいうべき先祖供養はしたけれど、旅行や花火見物などレジャーに関する夏の体験は残念ながら一切ない。夏のバーゲンセールもインターネットの中だけだったから不完全燃焼だ。GOTOキャンペーンとは裏腹な外出自粛の2020年は「コロナと猛暑を乗り切るStay Homeの過ごし方」が存在した特別な夏だったのかも知れない。

そんな物足りなさの残る私に向けて「まだ間に合うよ!」とばかりに各出版社の夏のイベントが暖かく迎えてくれた。本好きにはたまらない“新潮文庫の100冊2020(新潮文庫)”や“カドフェス2020(角川文庫)”、“ナツイチ2020(集英社)” だ。その“新潮文庫の100冊2020”から、おすすめの一冊をご紹介する。

*****

人の死ぬ瞬間が見たい。

幽霊でも心霊写真でもなく「人の死ぬ瞬間」が見たい。本書はそんな好奇心たっぷりの小学6年生の少年達・木山くん、山下くん、河辺くんの夏の物語だ。

丁度よく?なのだろうか、タイミングよく?というべきか。町外れに住むあるお爺さんが近所の主婦の間で「もうじき死ぬのでは?」と噂されているという。生ける屍のように暮らしている一人暮らしの老人。これはチャンスとばかりに毎日学校帰りにお爺さんを見張り、是非ともみんなで死ぬ瞬間を見ようではないか、と話がまとまる。

実際お爺さんの家へ行ってみると、想像以上に手入れがされていないゴミ屋敷であった。荒れた庭へ忍び寄って曇りガラスから部屋の片隅に見えるお爺さんをこっそり覗く。湿っぽく薄暗い部屋にポツンとこたつ布団に入りテレビを見ている姿は、3人を憂鬱な気分にさせるのだが、好奇心の方が勝り夏休みを迎えても張込みは続行された。

ところが、である。

期待とは裏腹にお爺さんは日増しに元気になっていく。しまいには健康体操まで始めているではないか。これでは目的が達成できないと慌てふためいた矢先に、3人の存在がお爺さんにばれてしまう。

さて、どうなるか。

その先のお爺さんと少年達の心温まるストーリーは、是非ご一読願いたい。少年達の素直さにハッとする場面が多く、真剣に死生観と向き合ったり、それぞれの悩みを抱えながらも賢明に生きている3人の姿が切なくて胸が痛くなったりもする。おばさんは少年のピュワなハートにすこぶる弱いのだ。

夏の終わりを告げるのにふさわしい物語であった。結局、今年の夏もそれなりに夏らしく過ごせたな、素敵な本にも出合えたし良い夏だったな、と思えた。そんな気持ちにしてくれた『夏の庭』に感謝!

【投稿者】KURI

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