書評『さいごの番長』KURI
花粉症に泣いています。飲み薬は苦手なので、点眼・点鼻とマスクを付けてなんとか過ごしています。花粉症の皆さまも、どうかお大事にしてくださいね。
”ここにおれの世界がある!おれだけにわかるかけがえのないないすばらしい世界が!”
『さいごの番長』吉岡道夫(著)
新刊をいち早く読んで時代の最先端を知ることや、古典を深く読み解き偉人達の叡智を得ることに憧れもするのだか、凡人のレベルで読書を味わい尽くしたい。そんな読書人間のハートを奮い立たせる一冊、昭和に読まれた児童書のご紹介。
タイトルネーミングのセンスの良さからして想像できるであろう本書は昭和のお話。番長、ててなし子、かわききった校庭などなど、黄昏色の夕日が心ににじむセピア色の世界へタイムスリップ。そんな古き良き時代を思わせるストーリーに、新鮮で、面白くて、眩暈がする。
内容としては一言で言えば番長・香月の心の成長を描く青春譚だ。香月は隅田川沿いの下町にある西北中学校1300人の頂点に君臨する番長。番長の命令は絶対で、1300人の生徒達は男女を問わず彼の言うがままに行動する。
香月には人としての魅力がある。母親を大切に想い、野良犬を唯一の友として慕う。そして担任の高坂先生や、PTA会長であり大学院の院長で脳外科の第一人者の朝倉博士がよき理解者となる。その娘の玲子は香月にとってちょっと苦手な存在である。
番長グループの行為は手荒い。校長室に小便をしたり、授業中に窓から鎖をつけた猫の死骸を投げ込んだり、喧嘩相手に犬の糞を強引に食べさせたりする。かなり過激…というか明らかに犯罪行為だと思うのだが、校内の秩序が保たれていなくともそれはそれで何とかなる西北中学校に最も恐怖を感じる。そして番長決戦には「ろうそくミサ」なるものが存在する。腕にろうそくを立て、熱さの我慢対決を行うのだが、もはやどんなプレイ?と疑いたくなる。
新学期が始まってまもなくのことである。高坂先生が盗まれた運動靴の犯人は香月ではなかろうかと疑うシーンがある。下駄箱を開けて確かめる時の自問自答の場面だ。
「こんなことをしていいのだろうか。」
「しかし、このままだと、いつまでも香月をうたがいつづけることになる。」
「香月、おまえを信じたいためにすることだ、ゆるしてくれ。」
高坂先生は香月の下駄箱の前で思い悩む。生徒の人権を尊重している教師の姿、なのである。
【投稿者】KURI