書評『モルグ街の殺人』KURI *ネタばれあり*
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ゾウやライオン、オランウータン。様々な動物達が大活躍する大道芸のサーカスがパリの街を賑わせていた時代に、アメリカの天才は考える。
「密室殺人の犯人はオランウータンでも良くないだろうか?巨大なる体格で絶大なる力と活動を誇り、野生ならではの獰猛さを備え、模倣的な傾向を示す哺乳類が起こした事件とは、なんとも楽しそうだ。」
こうして軽やかな気持ちで書かれた天才の短編小説は世界初の推理小説となる。後世に多大な影響を与えた、偉大なる作家による偉大なる作品の誕生だ。
オランウータンが犯人ならば、犯猿と言うべき?だろうか、迷うところだ。もちろんオランウータンには復讐といった殺人の動機など一切ないし、オランウータンを操る影の人物なども存在しない。よって、どちらかと言うと“事件”と言うより“事故”と言うのが正しいような気もするが、本作品の品位には何ら影響はない。そんな細かいことは気にせずに、事件のロジックを楽しもうというのだ。
分析力、想像力、洞察力、直観力、観察力、記憶力、解析力。語り手は冒頭にミステリを解き明かす上で必要な能力と、娯楽としての読書の快楽ともいうべき楽しみ方を語り尽くし、舞台はモルグ街へと移動する。
語り手の“わたし”は、パリのモルグ街に名探偵オーギュスト・デュパンと共に暮らしている。名探偵と助手という設定に、さぞかしアーサー・コナン・ドイルも興奮しただろう。名探偵・シャーロックホームズと助手・ワトソンの源泉がそこにあるからだ。
デュパンは新聞記事のある未解決事件に興味を持つ。レスパネエ夫人とその娘のカミイユ・レスパネエが惨殺されたこの事件。2人のむごたらしい殺害現場や、多くの人が犯人の声を聴いたと証言する場面など、記憶に残るシーンが数多くあるのだが、個人的には2人が街路を散策する姿やろうそく2本の灯りの中で語り合うシーンが好きだ。デュパンが分析力、想像力、洞察力、直観力、観察力、記憶力、解析力をフル回転させて語る様子が目に浮かぶ。冷静さと興奮の入り混じる感情・デュパンの知的興奮ぶりが伝わり、読者をポーが生み出した世界観へと誘い招く。
しかし、そんな天才ポーの人生は不幸の連続であった。
才能があるから幸福な人生を送れるとは限らない。
【投稿者】KURI