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書評『 SF超入門』

ずいぶん待たされたな、ようやく本が出たか。そんな印象である。

著者である冬木糸一さんは、SF横浜読書会KURIBOOKSへゲストとしてお迎えしている方である。毎回、読書会内では課題となった本の解説などをお願いしていて、驚きと発見をもたらてくれている神のような存在。そして、言わずもがな「基本読書」のブロガーであり書評サイトHONZのレビュワーでもある。森博嗣さんの文庫本『赤目姫の潮解』の解説を書いたり、本の雑誌には彼の「新刊めったくたガイド」と言うコーナーもある。読書好きならば一度は目にしたことがある名前のはずだ。面白い本を探し続けて日々放浪している私にとって、彼の書評は良い羅針盤となる。そんな彼のSF小説に関するガイドブックならば買わない手はないと即買いした。

彼の書評はわかりやすくて無駄がない。内容も純粋に面白い。なぜだか読み進めていくうちに「冬木さんは本当に本が好きなんだ」と感じる。そして、何より、その本が読んでみたいと思ってしまう魅力のある解説を書く。書評家はあらすじの全てを語らずに、その本の最大のうま味を残して、本の魅力を伝えなくてはいけない。本と読者を繋げる橋渡しの役目と言えよう。そんな書評家の書く技術を知る上でも、本書は勉強になる。文章のセンスって個人の才能でもあるけれど、ある程度は模倣して学べる気もする。本書から冬木さんの才能をひとひらでも学び取るのもおすすめだ。

本書は冒頭に、サイエンスの視点とフィクションの視点を軸にした地図が付録されている。このSF沼の地図が凄い!自分がサイエンス寄りのノンフィクションの分野の本に弱いことに気づくと同時に、私の大好きな『銀河ヒッチハイク・ガイド』が、その対極のサイエンスに限りなく遠くライトフィクションに位置する本だということに笑ってしまった。そして、より細かく本書を紹介すると、先ず、SF小説が①最新のテクノロジー②未来の災害予測③人間社会の末路の3つに分かれ、そこから17のカテゴリごとに紹介されている。例えば『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は①最新のテクノロジーの人工知能・ロボットに分類される。冬木さんがSFの魅力にハマったきっかけを作った『戦闘妖精・雪風<改>』も紹介されている。この本は②未来の災害予測の戦争に分類されるようだ。

選りすぐりの56冊である。個人的に『三体』、『幼年期の終り』はなんとなく予想できたが、まさか『徴産制』が紹介されるとは意外だった。確かに近未来のジェンダー問題を語る上で読んでおいて損はない気がする。またSFの起源書と言われる『フランケンシュタイン』から数年前に話題となった『プロジェクト・ヘイル・メアリー』まで幅広く紹介されている。ノーベル文学賞作家の『わたしを離さないで』もある。けれどテッド・チャン作品がないのはなぜだろうか?疑問が残る。

本書からSF小説を読むきっかけを得られることは保証する。個人的には本書を読んで『七人のイヴ』の凄さの解説が腹落ちした。著者の描く物語の描写の細かさが読み手にリアリティを生む。緻密なヴィジョンには説得力がある。

出版社からは「10年後の現実が知りたいなら、SFを読め」と、紹介がされているが、残念ながらSF小説を読んだところで10年後の現実なんて誰にもわからない。確かに、SF小説は近未来を物語っていて予言的要素もあるが、単純に「紹介されている56冊は未読だけれど面白いのか?」と思っている方や、「紹介されている56冊の魅力を再認識したい」方や、「紹介された56冊を読んでつまらなかったが、巷の評価はどうなのか?」と思った方など、つまるところ全員におすすめだ。10年後の現実を不安になる時間が惜しくなるほど本が読みたくなる欲求にかられるから、10年後の現実を知らずとも、選りすぐりの56冊に翻弄される「今」を楽しんでもよいのでは?という気持ちになる。SF小説の魅力に酔い痴れる一冊。

【投稿者】KURI

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