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これまでの読書会

第10回SF横浜読書会KURIBOOKS

■2023年9月18日(月)20:00-22:00 晴れ

■参加者6名(男性2名、女性4名)でした。

小松左京(著)『日本沈没』を課題の本として読書会を行いました。

日本のSF文化を築いた作家・小松左京の代表作である『日本沈没』は、

1973年3月に刊行されて50年が経ちます。

映画・ドラマをはじめ、アニメや漫画など、様々なメディアで取り上げられたり、

465万部を超える大ベストセラーの本だけあって、再読した方が圧倒的に多かったです。

 

先ずは、全体の感想からうかがいました。

・幼少期に映画やドラマを観た記憶があり、大人になってから原作を読む機会ができて嬉しい。

・当時の『日本沈没』は、ノストラダムスの大予言のようにインパクトが大きかった。

・日本人の心に摺り込まれている物語だ。

・国内で大きな自然災害が起きるたびに「日本沈没」を思い出すが、

実際の小説の内容はぼんやりとしか思い出せないでいた。

・SF小説だと意識せずに読んだ。

・あらためて日本SF小説の素晴らしさを再認識したと同時に、

もっと世界的にも評価されてもよいのではないかと思う。

 

その他、『日本沈没』の刊行後、

筒井康隆がパロディ版として『日本以外全部沈没』を書いたなど、話が広がりました。

 

本書は「科学の考察がストーリーの基軸」となる小説です。

アンディ・ウィアー(著)『火星の人』も同じタイプの小説と言えるかと思います。

科学そのものがプロットになるため、映画やドラマにした場合、

当然、その時代の科学の最先端技術や関心事が物語の軸になります。

本書は、マントル対流のパターンが急激に変化して

鳥島付近で無人島が消失した地殻変動から物語が始まるのに対して、

近年のドラマや映画は、環境破壊や気候変動といった自然災害がテーマになる傾向にあるようです。

 

また、本書には「日本人とはなにか?日本人が日本という国土を失ったときどうなるのか?」

という普遍的なテーマが盛り込まれています。

その当時の、高度成長期を生きる勢いから、すっかり浮かれてしまった日本人に

警告を鳴らすために書かれたとされる『日本沈没』は、

過去の戦争体験を背景に据え、戦後の日本人像を各世代に分けて、丁寧に描いています。

その中でも一番に、段階の世代・昭和の大人を描きたかったと察しますが、

注目すべきはその時代の若者の描き方で、まるで今の若者を描写するような表現で驚きました。

”このドライで、クールで、しかも人当たりのいい、人好きのする、おとなの悪魔的な意地悪によってつけられたねじくれた「傷」を負っていない、べたついたところがなく、物質や権力に対する執着もなく、生活に対する欲望も淡泊で、さらりとした感じの青年たちは、いわば戦後日本の生み出した傑作といえるだろう。彼らは自分たちを「日本人」であると感ずるより、まず「人間」であると感じており、日本人として生まれたことは、皮膚の色や顔形のちがい、背の高さ、といったような、人間一人一人が持つ、しごく当然な「個体差・群差」としてしか意識していない。彼らは、自分たちを、「日本の中でしか生きていけない」と考えてはいない。地球上、どこへ行っても自分は生きていける、と思っている。生きていくことが、特定社会内における「立身出世」への妄執とつながっていないから、どこでどんな暮らしをしようと、自分の人生を「失敗」したとか、「だめなやつ」だとか考えてみじめな思いをすることもない ”

小松 左京. 日本沈没(下) (Japanese Edition) (p.152). Kindle 版.

いつの時代も「大人からみた若者の姿」は普遍的なのかもしれません。

 

また「地震に対する恐怖」について、

地震大国である日本人にしか理解できない感情なのかも知れないと言う意見が出ました。

実際、外国人作家は地震の小説を書かない、地震を知らないから当然だろう、ということです。

例外として、SF作家アーサー・C・クラークは、過去の小説の中で地震を描いているようですが、

「地震の揺れ」に対する認識のずれがあり、小さな震度にもかかわらず大げさに書いていたようです。

アメリカのハリケーンの恐怖やチェルノブイリ問題にも話題は広がり、

その恐怖を味わった者にしかその恐怖はわからないという結論になりました。

 

東日本大震災のゆれを体感し、現実に経験したわたしたちにとって、

現実が小説を越えたと言っても過言ではないでしょう。

そんな危機意識が、現実に降りかかっている今だからこそ、

再読すべき一冊なのかも知れません。

 

続いて、『日本沈没』のストーリーを深く掘り下げた感想ですが、

章立てにしろ、ストーリーにしろ、何のひねりもなくストレートに書いているのが本書の特徴です。

終末を描くことを得意とする作家の、直球で展開する物語の感想は以下になります。

(「D計画」までディスカッションが及ばず申し訳ございませんでした。)

・小野寺と玲子のラブストーリーはいらないと思った。

・日本が沈没するのに呑気に山登りをしている若者がいるのには驚いた。

・政治家は今も昔も変わらない。

・政府官邸で繰り広げられるシーンは読んでいて「シンゴジラ」を思わせる。

世代的に庵野監督は小松左京に影響を受けているはずで、

「シンゴジラ」は『日本沈没』のオマージュなのでは?と思った。

・日本がパニックに陥った場合の想定パターンをさりげなく網羅されていて凄いと感じる。

具体的には食料危機に陥った時の人々の行動や考えや、皇室の人たちへの対処の仕方など、

丁寧に描かれていて流石だと思った。

・田所博士が登場すると物語が俄然面白くなる。

・郷の存在は物語に必要だったのか疑問だ。

・渡老人の傍らにいる女性が謎すぎる。

・異端の学者やフィクサーとして政界とつながる謎の人物、という設定は王道だと思う。

・一番書きたかった章がある!と言う感じではなく、

全体の章を通して随所に書きたかったことを散りばめた印象がある。

 

また、小松左京はワープロをいち早く導入した作家のようですが、

『日本沈没』は手書きの原稿によって本になりました。

実際の手書きの原稿を、WEBから閲覧すると、

赤入れされていたり幾度となく書き込みが入っていたり熱量の感じる原稿をみることができます。

ワープロで書くと手書きよりも簡単に文字におこせるので

物理的にボリュームのある小説になりがちのようです。

しかし、本書は丁寧に書き綴って仕上げた結果、

ボリュームが出てしまった小説だということがわかりました。

 

また、最近のSF作家の傾向として、

思考実験からSFプロットタイピングに変化しているそうです。

時代の変化を感じる流れに、複雑な想いを抱きました。

 

大変楽しかったです。

ご参加いただきました皆様ありがとうございました。

また読書会でお会いしましょう。

 

■今月の皆さんへの質問です。

自己紹介の時に、すべての読書会の参加者の方へ聞こうと思っています。

【恋愛が続く理由】

知らん~(笑)、と言いつつお答えいただきました。

・恋愛は勘違い・妄想の世界です。そして、現実を知り、恋愛は終わるものです。

・逆に教えて欲しい。

・私の恋愛は少女漫画が育ててくれました。愛は追い求めるものです。

・お相手に対して、大きなマイナスポイントがなければ続くような気がします。

・若い人にはたくさん恋愛して欲しい。

以上です。

【追記】

懇親会ではSF映画を中心に映画の話で盛り上がりました。

・チャッピー

・第9地区

・WHOLE/ホール

・グランドツーリスモ(現在、映画館で上映中)

・ゴジラ-1.0(もうすぐ映画館で上映予定)

などがおすすめだそうです。

 

セカイのどこかで終わらない夜の語り場があってもよいと感じます。

ぜひ横浜読書会KURIBOOKSへ遊びに来てください。

 

【投稿者】KURI

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