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書評『3千円の使いかた』

本書は、2018年に中央公論新社より単行本として刊行後、2021年に文庫化されてから徐々に売れ始め、現在50万部を超える大ベストセラーの小説となっている。コロナ禍ということもあり、世の中の人のお金に関する関心が高くなったことも追い風となったのだろう。ロングセラーとして売れ続けている。


 『3千円の使いかた』というタイトルからお金がテーマの本だとわかる。しかし節約術や財テクの話、お金にまつわるハウツー本かと思って読んだが全く違っていた。もちろん貯蓄や家計簿の歴史、高齢者の年金と貯金の話など、ためになるお金の話に触れてはいるのだが、本書は「人生の選択」の物語だと言える。人生を決断するときには必ずお金の事情が絡んでくるし、お金の考え方はその人の価値観に繋がる。その人の人生はお金の事情を除いては語れない。


 妹・美帆(一人暮らしをしており、結婚やこれからの将来のことを真剣に考え始めている)、姉・真帆(消防士の夫と娘の3人暮らし。節約に余念のない主婦で貯蓄額1000万円を目標にしている)、母・智子(癌の手術や友人の熟年離婚から夫との関係や今後の老後を考える)、祖母・琴子(夫の死後、預貯金が減り不安を感じている)、琴子の園芸仲間・安西(定職に就かず、独身を謳歌している。ライターとして働く彼女がいる)が主な登場人物となり、各章ごとに主人公が入れ替わる。20歳代から70歳代の各世代の視点から描かれるから、どこかに自分によく似た人が必ず見つかるはずだ。


本書は悪人が一人も出てこないが、関わりたくないと感じる人物もちらほら存在する。その態度、その言葉に衝撃を受けて「滝に打たれて修行してこい!」と言いたくなったりもするが非難もできない。人生の選択は自分にあるわけだし、価値観のバロメーターは人それぞれだ。そして最終章は全員の”その後”が描かれるのだが、登場人物の心の揺れの根底はすべて「お金の事情」が絡んでいることが本書の肝だと考える。さて、あなたなら登場人物の決断をどう思うのか? ちなみに今の私は、本書をハッピーエンドと捉えたが10年前の私や10年後の私がハッピーエンドと感じるかはわからない。お金の価値観は生きる時代や自分の年齢によっても変わるからだ。 


『3千円の使いかた』は、最初は『節約メリーゴーランド』や『節約小説』といったタイトルで考えていたそうだ。その場合、果たして今と同じくらい売れただろうか?いや、難しかったと思う。そう考えると『3千円の使いかた』は秀逸なタイトルだとあらためて思う。これだけ売れた理由はおそらくタイトルにもある。

【投稿者】KURI

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