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これまでの読書会

第19回(8/24)考える横浜読書会 『砂の女』

■男性7名、女性10名の計17名(進行役含む)での読書会でした。

今回の課題図書は安部公房の『砂の女』。1962年に刊行されて以来、二十数ヶ国語に訳され、今もなおベストセラー作品として輝き続ける昭和の名作です。ちょうど作品世界と同じ「8月」に課題本として取り上げることができたのが嬉しいです。参加者の中には初読派よりも再読派のほうが多かったですが、再読派のほとんどが「初めて読んだのは高校生の頃」だったのが印象的でした。

【ご紹介いただいた本】

■参加者の感想

作品全体について、文章や構成の上手さが話題に上りました。

再読派の人も、前回とはちがう感想を持った人が多かったようです。

・最初はつらくてじめじめした印象でとても読みにくかったが、逃亡を始めたところから一気に読めた。
・描写力がすごい。風や影の描写が効果的に使われている。
・比喩が独特。昔はこの凄さがわからなかった。
・面白いのかどうかわからない。カテゴリ不明な小説。
・よくわからない。つかみどころがない。
・不快感があるのに、読まされる。粘着質でざらざらした文章。
・構成や比喩がすごく上手い。でもちょっと過剰。
・まとわりつくような文章。
・無国籍な小説。舞台は日本でなくてもいい。時代はいつでもいい。
・古い話なのに、今でも違和感なく読むことができる。
・匿名性が逆にとっつきにくいところもある。S駅がどこだか気になってしまう。
・男が突然脳内で会話し始めるところが演劇的。
・相対的なものがいくつも出てくる。自由と拘束、都会と田舎、男と女…

作品のキーワードとなる「砂」については様々な意見が出ました。

・『砂の女』というタイトルが良い。
・固体でありながら流動するものである「砂」の使い方や描写の仕方が上手い。
・だんだん自分を消していって、砂になっていくイメージ。
・女自身が砂のようなイメージを感じる。
・日常から非日常へと男の世界が変わっているが、否応なく立ちはだかる日常が砂に象徴されているのではないか。
・男は砂の女に囚われて、砂の男になった。

主人公の男についても多くの意見がありました。
変わった男のように書かれているけれど、普通によくいるタイプだという見方が多かったです。

・男は他者に興味がなさそう。どこか他者を軽蔑している。なんでも人のせいにしている。
・次第に男が、穴の中の生活に楽しみを見出すようになっている。
・「砂の毛細現象だ」と言い出したとき、男は明らかにウキウキしている。
→実際のところ、そういうものだ。男が普通の人に見える。
→ウキウキしてしまう気持ちもわかる。
→集団(部落)の役に立てることに喜びを見出している?男性的。
・目の前のこれだけあればいい!という極端な場面がいくつも出てくる。水さえあれば!自由さえあれば!命さえ助かれば!
・昆虫採集が趣味の男が、捕まえる立場から捕まる立場に一転するのが上手い。

最終的に男が留まることを選んだ点については、やはり盛り上がりました。

・昔読んだときには「なぜ逃げないのか!」と腹が立った。自分なら逃げる。
しかし不自由さに慣れてくるとそこに安住するようになるのも理解できる。
・狭い世界で好きなものを見つけたので、帰る必要が薄れている。
・冒頭の「罰がなければ、逃げるたのしみもない」にすべてが集約されている。
男は最後、逃げる理由を失ってしまったのだろう。
・逃げる気がなくなったわけではなく、「今じゃなくてもいい」と思うようになった。
日常はずっと続くという無意識の期待がある。
・そもそも部落に来る前の生活が全然楽しそうじゃない。
・男は結局この砂の穴の中でしか生きられないのではないか。
不自由の中でしか自由でいられないように見える。
・これまでずっと働かざるを得なかった男が、貯水装置によって選択肢を得た。
出ていくことはできるが、出ていかなくてもいいという事実が心に余裕を与え、
今のままでもいいかなと思うようになったのではないか。

また面白い視点での感想も出たので、少しご紹介します。

・そもそもこの「女」は実在しているのか?すべて男の妄想では?
・砂の中にいたのが男だったらどうなっただろうか?
・男は青酸カリを持っていたはずだが、それを飲んで死のうとは思わなかったのか。
→そういえば男は一度もあきらめていない。絶望はしていない。
・この後は再び女が穴に入れられるのだろうか?その女はどうするだろうか?
・砂が雪だとしたらどうだろうか?印象がかなり変わってくる。
・男の年齢と生年月日や、新聞の日付と曜日が合致しないのはわざとだろうか?
→昔だから校正でミスした可能性もあるが、単なるミスとも思えない。

他にも砂の女には昭和のエロスを感じた、特殊な環境に適応していく男にショックを感じたなど様々な感想を聞くことができました。20年ほど後に再び読書会を開いて、どのように感想が変わるか聞いてみたい気もします。

参加いただいた皆様、ありがとうございました。

■参考にさせていただいた資料
『安部公房』(新潮日本文学アルバム 51)新潮社、1994年4月
安部公房『安部公房全集 <012> 1960.06-1960.12』新潮社、1998年8月
安部ねり『安部公房伝』新潮社、2011年3月
木村陽子『安部公房とはだれか』笠間書院、2013年5
山口果林『安部公房とわたし』講談社、2013年7月

【投稿者】KINO

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