1. HOME
  2. これまでの読書会
  3. 第40回考える読書会 『日の名残り』

REPORT

これまでの読書会

第40回考える読書会 『日の名残り』

■参加者13名(男性2名、女性11名)でした。

課題本はノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロの代表作『日の名残り』。何度も読んでいるという方も何人かいらっしゃり、カズオ・イシグロの人気がうかがえました。

■この物語をハッピーエンドとしてとらえたか、バッドエンドとしてとらえたかを、参加者の皆さんにお聞きしました。

ハッピーエンドという方が多く、その理由として「ケントンとの関係が失恋という形で決着がつき、人生に区切りをつけて前向きに生きようとしている」「執事として新しい主人のもと新しい時代の中で生きていこうとしている」「ケントンから過去に想われていたことを聞けただけでも幸せ」などが挙げられました。

バッドエンドととらえた方は、「恋が実らなかった」「執事としてはハッピーエンドだが恋愛としてはバッドエンド」「仕えていた主人がナチスに加担した犯罪人になり、それを信じた自分を反省しながらも、また同じことを繰り返すようにみえる」などの理由を挙げていました。

■作品を読んでの感想

・読むたびに、スティーブンスに対する感情が変わる
・映画化されているが、映画より小説がいい
・読後感がすがすがしい
・しみじみとした余韻が残る
・過ちに執着するより前を向くしかないと思った
・人生の黄昏どきの話で、身につまされるが、参考にもなる
・主人公の夕暮れ時の話で考えさせられた
・スティーブンスは、恋愛もせず、真面目で意固地。もっと人生を楽しめばいいのにと思った
・スティーブンスの主人に仕えつくす姿が美しい
・スティーブンスは主人に一途すぎて周りが見えていない人
・スティーブンスにイライラした
・過去と現在が折り重なる構成が美しい
・イギリスの没落をイメージさせる題名がよい
・計算しつくされて、よくできている本
・30代でこの内容を書けるとは、カズオ・イシグロはすごい

■カズオ・イシグロの経歴や作品の時代背景などについて簡単に解説をしたあと、「スティーブンス自身による語り(信頼できない語り手)について」「スティーブンスと父」「スティーブンスとケントン」などについて皆さんと意見・感想を出し合いました。

・「スティーブンス自身による語り(信頼できない語り手)について」
どこまで彼が自分自身のことを語っているか、それは読み手にゆだねられ、様々な解釈が可能となります。実際、あらゆる場面で、ここは「本心を語っている」と思われる方と、「スティーブンスが偽っている」「本人自身が事実から目をそらしている」と解釈される方に分かれました。皆さんの見解の違いが、とても興味深く、あらゆる読み方ができる作品だといえます。スティーブンスが本心を述べていない、または、事実から目をそらしているのだとすれば、なぜそうしてしまうのか、そのあたりを参加者の皆さんの解釈を聞きながら、いろいろ考えていくのも面白かったです。

・「スティーブンスと父」
スティーブンスは父を執事として尊敬していると思われる一方で、倒れた父に対して冷たい態度をとっているようにも思われます。二人には親子の愛情があったのかなどについて、様々な意見が出ました。「信頼できない語り手として考えれば、本当に父は偉大な執事だったか疑問」という意見も出ました。「母の話が出てこないのはなぜか」、そのあたりも、父と子の関係やスティーブンスが恋愛に不器用な点などと関係してくるのかもしれないという話にもなりました。

・「スティーブンスとケントン」
この小説は恋愛小説とは思わないという方が数人いらっしゃいましたが、会で一番盛り上がったのは、2人の恋心についてでした。スティーブンスの滑稽なほどの不器用さ・鈍感さに鋭い突っ込みの感想が多く、なぜこのような人物なのか、性格・仕事・育ちなどの視点からいろんなご意見が出ました。スティーブンスは、「ケントンに恋心を抱いていたか」「ケントンの恋心を本当に気づかなかったのか」について、これも信頼できない語り手として、さまざまなシーンで深読みができて盛り上がりました。特に、スティーブンスの回想に出てくる取返しのつかなくなってしまった「夢」とは何かをめぐっても、ケントンとの恋愛と絡めて皆さんのいろんな解釈をお聞きできました。「スティーブンスもケントンも、同じタイプの人間で、恋愛と仕事のバランスのとり方も似ている」という興味深いご指摘もありました。

■資料に引用したカズオ・イシグロの言葉「我々の大半は、みな何らかの意味で執事ではないか」に、共感される方もいて、主人に一途に仕えるスティーブンスの仕事への姿勢は素晴らしいけれど、ナチスに加担する主人をただ信じ仕える彼をどう解釈・評価するかでは、様々な意見が出ました。実際に、会社での上司との関係で置き換えて考えてみると、身につまされる・難しい問題といったご意見も出ました。また、当時のイギリスの一般市民が、どれほどナチスの社会的脅威を知ることができていたのかといった話にもなりました。歴史の中の人間の在り方、自分の信条と所属する組織との兼ね合いなど、社会人としての生き方をも考えさせられました。

■「スティーブンスは真面目なのだけれど、笑ってしまう」と参加者の方がおっしゃったように、『日の名残り』は、後悔と人生の黄昏の話だけれども、重苦しかったり切ないエピソードも笑いに変え、読後感もさわやかな作品です。カズオ・イシグロの見事な構成と筆力に、読書会を経てますます感服しました。

■皆さんのトークが盛り上がり、時間の関係で、「品格について」「旅行の回想5日目の章がない事について」「タイトル『The Remains of the Day』に込められた意味」などについて、十分に語りつくせませんでした。それだけ、読み応えたっぷりの作品だといえるでしょう。ある参加者の方が「歴史・恋愛・信頼できない語り手などのいろんな視点で再読したい」とおしゃっていましたが、ぜひ再読して、また別の機会に語り合いたいです。

ご参加いただいた皆さま、本当にどうもありがとうございました!!

【投稿者】NAOKO

REPORT

これまでの読書会