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第33回考える読書会 『源氏物語』第6回(若菜上・下)

■『源氏物語』を読み進めていく企画の第6回目(全10回)。いよいよ、後半、折り返しました。

参加者18名(男性8名、女性10名)。今回から参加の方もいらっしゃいました。ご都合で参加できない方2名が、感想などのコメントを寄せてくださいました。

 

訳者は決めずにお好きなものを読んできていただいており、今回の訳者さんの内訳は以下の通りです。

 

角田光代訳  7名

林望訳    5名

瀬戸内寂聴訳 2名

大塚ひかり訳 2名

田辺聖子訳  1名

橋本治訳   1名

 

 

■まずは、若菜の巻を読んで印象に残ったところをお聞きしました。

 

・光源氏の四十賀の夕顔と柏木のシーン(紅葉賀の巻の光源氏と柏木の青海波の舞と重なり感慨深い)

・紫の上について苦労しないで安楽に暮らしてきたと思っている光源氏の無理解・無神経なところ

・今まで見えてこなかった紫の上の人間性が見えてきたところ

・女楽のあとに光源氏が自分のコレクションを見るように女君たちを見に行くシーン

・柏木と猫のシーン

・柏木が女三宮と思いを遂げるシーン

・明石の入道が宿願成就し山に引きこもるところ

・柏木と女三宮の密通を知った光源氏の反応がねちねちとしているところ

・光源氏の裏切り者に対する仕打ちがひどいところ   など

 

若菜は54帖の分量の10分の1を占めるだけあり、「いろんなことが起こりすぎ」の盛りだくさんの巻で、印象的なシーンを一つに選べないという方もいらっしゃいました。

 

 

■今回は、事前にお配りしておいた資料に基づいて、その都度、ご意見・ご感想を出していただく形で進めていきました。

まず、明石の女御が男児を出産して明石の入道の悲願が達成したことを、明石一族の系譜と照らし合わせながら、読み解きました。臣籍降下した光源氏のサクセスストーリーが、実は明石一族のサクセスストーリーの一部だったとも読み取れることについて、紫式部はどこまで構想を考えて書いていたのかという議論になりました。「最初はあまり考えず書き始め、評判になったので女子向け物語から社会派歴史ドラマに路線変更したのでは?」「最初は光源氏の絶頂期までのつもりが、サクセスストーリーだけで終わらせたくなくなったのでは?」など、いろいろと執筆動機・構想について想像が膨らみました。

 

 

■その後、源氏物語に登場する楽器について、画像資料も見ながら簡単に解説しました。楽器という小道具もきちんと物語の中で整合性をとり、光源氏の王権性を演出しているのは驚きでした。

当時の楽器演奏の重要性を考えると、貴族も大変だという感想がでて、貴族の生活は優雅そうだが和歌を詠んで楽器を演奏して自分には無理というコメントに多くの方が同意されていました。

 

 

■次に、柏木の密通事件と光源氏の密通事件との比較を簡単に説明しました。

柏木と女三宮の密通については、今回の若菜の大きな事件の一つであり、いろいろな感想・ご意見が出てとても盛り上がりました。「左大臣家の長男としてやってはいけないことをなぜやってしまったのか」「権力家の光源氏になぜ歯向かうようなことをしてしまったのか」などの疑問が出されました。「柏木は上昇志向が強く、女三宮という高貴な人にあこがれた」「4年もの間思い続けた恋心」。その許されない恋のため、光源氏ににらまれ追い込まれていく柏木。「光源氏が柏木・女三宮を下にみているような感じが嫌な感じ」と光源氏の権力の巨大さ・人間性が垣間見えました。一方で、光源氏がプライドを傷つけられ屈辱感を味わったという点で、「女三宮はわざとではないけれど、光源氏をやり込め、してやったり」というご指摘もありました。光源氏のねちねちとした女三宮への対応、柏木への仕打ちに、光源氏の俗物的なところが出ているというご指摘もありました。

 

 

■次に、女三宮降嫁をはじめとした六条院をめぐる変化の中での紫の上の矜持と絶望について簡単に説明しました。

ここまで紫の上は理想的な女性として描かれ、あまり人間性が出てこなかったためか、紫の上について読書会で話が盛り上がることがありませんでしたが、今回は様々なご意見・ご感想が出ました。

 

・実母を早くに亡くした紫の上は、母性を知らない光源氏に養育され、母性を持てていない

・紫の上はカゴの中の鳥のようで、外の世界を知らない

・光源氏の理想の女性として育てられ育ってしまい、本人のキャラクターがない

・正妻になれなかったことが痛い

・紫の上は今までピンとこないキャラクターだったが、人間らしくなってきた

・正妻の立場を追われた紫の上に対して、六条院での花散里の存在感が増し、花散里は実はやり手

 

「紫の上と光源氏は、いつもお互い向き合えていない」というご指摘がある一方で、「光源氏と紫の上はほかの女君に比べて、密にコミュニケーションをとっている」というご意見の方もいらっしゃいました。

また、花散里が紫の上に宛てた女三宮降嫁についての慰めの手紙の真意を、「私たちと同じ立場になったのよと、わざわざ書いている」というご指摘の一方で、「本当に紫の上を思いやった手紙」と考える人もいました。

人によって解釈が違ったり、いろいろな読み取りができるのは、『源氏物語』の面白さ・奥深さといえ、両極のご意見を聞くことができるのこそ読書会の醍醐味です。

 

 

■最後に読書会を終えての感想を全員の方にお聞きしました。

 

・皆さんの感想・意見を聞けて気づくことが多い

・女三宮は誰も愛していないということを改めて気づいた

・今回はすいすいと読めて、この巻だけで一つの小説となっていて面白い

・光源氏がこれからどのように転がり落ちていくのか気になる

・細やかな心情が書かれていて感銘深かった

・病など暗い部分の多い巻だった

・若菜の巻は光源氏・紫の上の老境に差し掛かった話でつらい

・内面を吐露する巻でおもしろかった

・紫の上の不安定さに気づけない光源氏はダメな男

・満ち足りることのない光源氏が見えた

・紫の上の細やかな心情が読書会を通して気づけた

・登場人物でうまくいっている人がいないが、世の中・人生とはそういうものかとも思った

・ダメ人間がたくさん出てきて面白い などなど。

 

 

■若菜の巻は、参加者の方がご指摘されたように「紫の上の病や女三宮と柏木の密通など光源氏のコントロールできないことが次々に起きている」巻でした。また、「準太上天皇になり高貴で巨大な権力を持った光源氏が格下の人間に容赦ない」と指摘されたように、光源氏の光る部分だけでない面が見えてきた巻だったように思います。光が強くなれば、陰も強くなる。この巻では、夕霧・柏木・女三宮・朱雀院・紫の上など様々な人物の視点から光源氏が裁かれているような印象を受け、読書会でも光源氏へのいつも以上に厳しい容赦ないご意見が多かったように思います。

 

■若菜の巻は、「源氏物語はここからが始まり」とも「今までが長い長い伏線」ともいわれていますが、読書会でも「盛りだくさんの巻だった」「非常に濃密」「一つの小説として成立している」といった感想が多く出ました。そのためか、今まで以上に、多くのご感想・ご意見が出て、ディスカッション・フリートークがとても盛り上がりました。

 

ご参加くださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!!

次は、第二部の終わり「雲隠」まで。皆さんの熱いトークがとても楽しみです!

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

【投稿者】NAOKO

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