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これまでの読書会

第32回考える読書会 『源氏物語』第5回(蛍~藤裏葉)

■参加者14名(男性5名、女性9名)で、今回から参加の方もいらっしゃいました。ご都合・体調不良などで参加できない方数名が、感想などのコメントを寄せてくださいました。

 

■『源氏物語』を読み進めていく企画の第5回目(全10回)。いよいよ、折り返し地点です。訳者は決めずにお好きなものを読んできていただいており、今回の訳者さんの内訳は以下の通りです。

角田光代訳  5名

瀬戸内寂聴訳 3名

林望訳    2名

大塚ひかり訳 2名

田辺聖子訳  1名

円地文子訳  1名

与謝野晶子訳 1名

※並行して2つの訳本を読んでいる方もいらっしゃいます。

 

 

■まずは、藤裏葉の巻まで読んで、「光源氏は幸せだったか」について皆さんのご意見をお聞きしました。

(今回欠席でコメントいただいた方のご意見も入れています)

 

・幸せだった  10名

「人を幸せにしている」「自分のしたい放題のことをして、歴代彼女をキープしている」

「好き勝手なことをしていて、須磨に行った時もつらそうに見えなかった」

「お金も権力も女性も手に入れている」「自分に関わった女性が苦しんでいることを理解せず、女性を幸せにしていると思っているという点でも幸せ」 など

 

・幸せではなかった  3名

「自分は幸せでないと思っている。ただし、そう思っているのは自分だけ」「煩悩にまみれている」

「関わった女性の多くが苦しんでいて、誰も幸せにしていない」「常に出家したいと言っている」 など

 

・幸せともいえるし、幸せでないともいえる 2名

「はたから見れば幸せといえるが、本当に好きな人とは結ばれないので幸せとは言えない」 など

 

客観的に見れば地位・お金・女性を手に入れ幸せの条件は満たしているという点は、皆さんの共通認識でしたが、その状況を光源氏自身がどれだけ満足しているかのとらえ方で分かれたようです。

「人生は幸福がよいという価値観そのものが、どうかと思う」「苦しいこともあってこそ人生」というご意見もありました。ある参加者の方がおっしゃった「人生に100パーセントの幸せはない」ということなのでしょうか。権力を得た者は満足することなく更なる上を目指すのか、「足ることを知る」を光源氏に教えたいものです。

 

 

■今回は、事前にお配りしておいた資料に基づいて、源氏物語の時代的背景・第一部の構成・お香などについて簡単に解説し、その都度、ご意見・ご感想を出していただく形で進めていきました。

 

 

■まず、史実と照らし合わせがら源氏物語を読み解きました。貴族・藤原氏全盛期に、天皇親政を舞台に元皇族の男が活躍するストーリー。歴史書は社会のほんの一面を記したに過ぎず、物語こそ人生の機微まで書くことができるという光源氏のセリフ。紫式部の挑戦的な作家としての姿勢・見識に目を見張るものがあります。

 

 

■次に、紫上系と玉鬘系の2つに分けられる第一部の構成について、いろいろな感想が出ました。「2つに分けて書かれたとすると腑に落ちる」「納得できる」という感想が多かったです。

特に、玉鬘十帖については、「紫上系で欠けている世界を書いている」「基本路線の紫上系に対して運命のねじれを書いている」「禁断の親子関係を書いている」などのご意見が出ました。

また、どのような意図・経緯で玉鬘系を書くことになったのかについて、皆さんそれぞれに想像を広げ、「夕顔の子供はどうなったのかなど、当時の読者の希望があったのかも」「中流・地方の人たちを書きたかったのか」「紫式部と同階級の女房の世界を描きたかった」など様々な意見が出て盛り上がりました。

 

 

■次に、平安時代の香について画像と資料で簡単に説明しました。香については、興味を持っていたり、講座に通ったことがあったり、実際にお香を買っている方も何人かいらっしゃり、いろいろなお話が出ました。西洋の香水と日本のお香の違いを説明してくださる方もいらっしゃいました。「当時は、衣擦れ・和歌(聴覚)や香(嗅覚)など感覚を研ぎ澄ましているのが印象的」という感想も出ました。

 

 

■そして、第一部最終帖の藤裏葉について、いくつかのポイント解説後、フリートークとなり非常に盛り上がりました。

 

・藤裏葉は、争いのタネになりそうなことばかりがちりばめられている気がする

・髭黒の大将は光源氏の権力の陰りを見切っているのでは

・兵部卿の宮は、同じ娘でも、黒髭の大将の北の方には優しく、紫の上には冷たい。父親は同じなのに、北の方には帰る実家があるが、紫の上には帰る実家がない

・近江の君の扱いがひどすぎる

・頭中将ではなく光源氏なら、もう少し近江の君をきちんと遇しているのでは

・頭中将の近江の君への扱いを見ると、光源氏の玉鬘の待遇はすごい

・光源氏は教えるのがうまい人

・末摘花への返歌「からころも…」がひどい

・末摘花には光源氏はからかうけれど、ストレートに自分を出している。実は光源氏と末摘花は相性が良いのでは

・権力をとる、とらないだけの話でない、そこから波及する人間模様を描くところが面白い

など

 

 

■「紫式部は幸せでない人を美化し、幸せな人を卑下して書いている」というご指摘がありました。言われてみるとその通りで、なぜなのかと考えてしまいます。

さらに、玉鬘の話についてなぜ書いたのか、なぜ玉鬘を髭黒の大将とくっつけたのか、なぜ髭黒の大将と結ばれるまでの経緯を書いていないのか、など多くの疑問が出されました。

今回の読書会では、「なぜ」そのようなストーリーを書いたのか、「なぜ」そのようなキャラクターにしたのかといった、作者の執筆動機・構成や人物設定の意図などに関心が高まったように思います。答えが出るわけではありませんが、いろいろ考えさせられました。

 

■ほかに、フリートークでは、近江の君・末摘花・黒髭の大将の北の方・源典侍など脇役の話でも盛り上がり、話が尽きませんでした。それもひとえに、多くの登場人物をうまく描き分けられているからといえるのではないでしょうか。登場人物が皆、個性的で、参加者の方がご指摘された「必要のない人物がいない」、すごい物語なのだと実感しました。

 

 

■最後に読書会を終えての感想を全員の方にお聞きしました。

 

・非常に濃密な内容になっているのにまだ半分というのが驚き

・皆さんの感想・意見を聞けて楽しく読み進められている

・今回は安定して終わったが次回どうなるのかとても楽しみ  などなど。

 

 

■「権力者は物や女性など、なんでもキープしたがる」というご意見がありましたが、今回の源氏物語は、「香」「六条院」にしろ、光源氏の権力者の側面がよく見えた回でした。その光源氏栄華の最中、玉鬘は結婚して髭黒の大将の自邸に移り、夕霧も結婚して引っ越し、明石の君が入内するなど、六条院から多くの人が去っていく展開に、老いや権力の陰りが見えるというご意見も出され、物語がますます深みを増してきたように感じます。

 

ご参加くださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!!

 

次は、第二部の始まり「若菜」です。「若菜」を読まなければ源氏物語を読んだことにならないともいわれています。ここまではあらすじでよいから、「若菜」は絶対読むべきとも。皆さんの熱いトークがとても楽しみです!

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

【投稿者】NAOKO

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