REPORT
これまでの読書会
第36回考える読書会 『源氏物語』第9回(早蕨~東屋)
■『源氏物語』を読み進めていく企画のいよいよ第9回目(全10回)。
参加者16名(男性7名、女性9名)。訳者は決めずにお好きなものを読んできていただいております。
■初めに、今回の範囲の感想をお聞きしました。
・登場人物が少なくストーリーに動きがない分、心情がよく描かれていて現代の小説のように楽しめた
・宇治十帖に入って面白くなってきた
・宇治十帖の時代は、道長の摂関政治も崩れかけた時代で、暗くなってきている
・正編を楽しんで読んでいた読者層は、この宇治十帖についてどのような反応をしたのだろうか
・人物描写が細かくなっていて、入り込みやすかった
・登場人物が少なく読みやすかった
・薫が浮舟を抱き上げるシーンなど少女漫画のよう
・昼ドラのようになってきた
・薫と匂宮の対比が面白い
・正編は光源氏のみの話だったが、宇治十帖は薫と匂宮の友情物語としても面白い
・常陸介の夫婦関係など紫式部の書く内容・心情は普遍的
・浮舟と玉鬘など、正編と似たようなエピソードが宇治十帖で出てきているように思う
・ジェーン・オースティンの結婚問題のようになってきている
・浮舟が出てきて面白くなってきた
・結婚が男性・女性にとっても就活のよう
・中君の女性としての成長を感じた
・和歌が減った など
■次に、宇治十帖の男主人公である薫と匂宮、どちら派かについて、お聞きしました。
★薫派 6名
・匂宮の色好みの行動が好きでない
・匂宮の生まれも育ちもよく悩みもなく能天気で薄っぺらなところが好きでない
・どちらも恋人になると不幸になりそうだが、同じ不幸になるなら薫がいい
・薫は努力するけれど、どこかずれていて報われない。実は人間ってこういう人が多いのでは?
・薫は空回りしているところが、かわいくもある
・薫は、柏木の息子だけあって似ており、好きな人を手に入れられずウジウジしていて、まじめで、芸術にもたけている。総合的に見て薫がよい
・匂宮は苦労知らずのお坊ちゃんで悩まない。こういう人は変われないのでは。その点、薫は苦悩してまじめで、一緒に変わっていけるような気がする。
・匂宮派 8名
・軽いけれど話しやすそう
・匂宮はどうしようもなく好きものだが、薫を励ましたり明るいので匂宮がいい
・匂宮の方がキャラクターとして面白い、わかりやすい
・一年に一回くらいの逢瀬でいいから、匂宮がいい
・薫は身分によって態度を変えるのがいや
・匂宮は何も考えていないので罪はないが、薫のように考えてずるいのは罪がある
・自分のなかに薫的要素があるから嫌なのかもしれない
どちらかを選ぶのは非常に難しいという方が多かった中で、選んでいただきました。薫派は、匂宮の色好みの行動や能天気なところを嫌い、匂宮派は、薫の悩み過ぎているところや大君など過去にこだわり執着しているところなどを嫌い、その結果嫌いでない人を選ぶという方が多かったです。どちらも好きになれず選べなかったという人も数名いらっしゃいました。
自分のなかに薫的要素があるから薫が嫌という方と、自分と似たようなところがあるから感情移入しやすいので薫がいいという方もいて、薫派か匂宮派か、皆さんの人物分析は非常に面白かったです。薫と匂宮の人物の読み取りを通して、「読書好きな人は、悩めるややこしい薫を好きになる傾向があるのでは?」「男性はほとんどの方が匂宮派」などの興味深い発見もありました。
また、「小学校で目立たなかった子が、同窓会で変わっているケースのように薫も変わるのでは?」「薫と匂宮はそんなに違う人間ではないのではないか」といった新たな視点のご意見も出ました。
「薫は打算的で実務家。匂宮の正面突破派に対し、薫は外堀を埋めていくタイプ。ただ、大君が特異なタイプの人間だったのを見抜けなかったのが、薫の大きな誤算で失敗」という鋭い分析もいただきました。
登場人物について様々なご意見が出て盛り上がりましたが、それだけ宇治十帖の人物描写が詳しく書かれているからでしょう。それぞれの登場人物の良い面、悪い面が描かれ、現代にも共通する人間の本質的なものが読み取れるのだと思います。
■次に、事前にお配りしていた資料に基づいて、浮舟と中将の君らの身分の違いからくる人生の格差などについて考えながら、浮舟・中将の君の境遇や薫・中の君の行動などを考えました。
「正編では身分違いの恋でも本気で愛する世界を描いていたが、宇治十帖は身分にとらわれた世界を描いている」「宇治十帖は、中流階級の損得勘定などが赤裸々に描かれている」「中の君は召人を人と思っていない」「浮舟と同じ境遇である受領階級で田舎育ちの明石の君は、駆け引きがうまく明石の入道とともにうまく切り抜けた」などのご意見が出ました。
恋愛・結婚がその後の人生のランクを決め、財産や身分・親・家系・職業などにこだわる点は、実は現在でも変わらないのではないかというご指摘があり、「恋愛至上主義はつい最近のことで、今でもそうでない恋愛・結婚も多い」「現代も結婚に愛だけではないものを求めている」など現代の恋愛・結婚についてのご意見もでました。
「正編は道長の要請または道長の意に添うように書いたが、紫式部が書きたかったのは自分と境遇の近い浮舟や中将の君やその他の女房たちの話だったのでは」というご意見も上がり、紫式部が宇治十帖を書いた動機について話が盛り上がりました。
■会では、事前にお配りしておいた資料に基づいて、『源氏物語』に影響を受けた作品やパロディ作品などついても簡単に説明しました。近年も多くの作家さんが、ミステリーやらパロディ作品、主題を現代に置き換えた小説などに取り組まれているのは驚きです。源氏物語に込められたたくさんのテーマの読み解き、また、紫式部執筆の動機・背景などの謎解きをいろんな作家さんが自分の作品で挑戦しています。千年以上読み継がれてきた源氏物語の魅力の表れともいえます。
■最後に、今回の読書会を終えての感想をお聞きしました。
・皆さんの人物の読み取りが面白かった
・現代の恋愛についても考えさせられた
・浮舟はキーパーソンだなと思った
・薫の評価がぼろくそで驚いた
・読書会に参加しなければ、読むきっかけを持てなかっただろうが、ここまで読めた
・これだけの大作を読書会がなければ読めなかったと思う
・自分の人生の中で平安時代も源氏物語も縁遠かったが読書会で楽しめた
・匂宮・薫・浮舟の三角関係がどうなるのか楽しみ など
残すところあと1回となり、大作を読んできた達成感やら読書会だからこそ読めたなどの感想が多く上げられました。読書会だからこそ、多くの視点・観点で読むことができました。次回、54帖を読み切ったとき、どのような世界が見えてくるのか、非常に楽しみです。
■ご参加くださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!!
次回、最終回もどうぞよろしくお願いいたします。
【投稿者】NAOKO