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第37回考える読書会 『源氏物語』第10回(浮舟~夢浮橋)【完】

■『源氏物語』を読み進めていく企画の第10回、最終回。
参加者16名(男性7名、女性9名)。訳者は決めずにお好きなものを読んできていただいております。

■前半は、今回の浮舟~夢浮橋について、特に浮舟の巻を中心にご感想・ご意見を伺いました。

・薫も匂宮も浮舟を軽くみていてひどい
・浮舟にとって、薫は経済的支えであり、匂宮は性欲・官能的悦びであり、どちらかを選ぶのは難しい
・浮舟のように、親王の娘でありながら母が女房であり父に認知されないと、これほどひどい扱いを受けるのか
・浮舟の巻は、浮舟も女性として性的に目覚め、非常にエロチックに書かれている
・雪のなか匂宮が宇治を訪れ、浮舟を抱き上げ舟で隠れ家へ連れていくシーンは非常にロマンティック
・匂宮が二日間も浮舟と情事に耽るシーンをよくぞ紫式部が書いたと思う
・手習の巻は、浮舟の和歌が多く、浮舟は紫式部のように書く女性になってきているのではないか
・浮舟の詠んだ和歌は登場人物の女性では一番多く、浮舟は源氏物語の中でも心を見せている女性では
・浮舟は、他人を自分の中の入れてはいけない領域にまで入れてしまった。彼女の中にいろんな人の人生が入り込んできて、自殺するしかなかった

匂宮が薫になりすまし浮舟と契るという展開に、薫の匂いが特徴なのだからなぜ区別がつかなかったのだろうかという疑問が出されました。「だんだんと薫の匂いの話がなくなり、薫の独特な匂いが消えているのではないか」「浮舟の周りの女房たちは、薫と匂宮の匂いの区別もつかないほど教養がないということ」など鋭い考察が出ました。

■次に、源氏物語のラストについてディスカッションしました。宇治十帖は、未完説もあるぐらい唐突であっけない終わり方です。源氏物語は完結していると思うか、何らかの理由で未完のままだと思うか、皆さんの意見をお聞きしました。
完結していると思われる方は9名でした。その理由として以下の意見が出ました。
 
 ・最後のヒロイン浮舟が登場し、紫式部の解放感を感じる
 ・読んでいて完結していないとは全く思わなかった
 ・これ以上続けても同じ話の繰り返しになると思う
 ・紫式部にとってこれで満足だったかは別として、これ以上書くことはできなかったのではないか
 ・薫と浮舟の相違はこれ以上書いても埋まらない
 ・永遠に問いかけが続く終わらせ方
 ・もやっとした終わらせ方で人生こんなものという感じ
 ・源氏物語は代用品の話で、浮舟は代用品の代表。その代用品を水に流そうとして流れず、神様にお願いするという結末だと思う

「光源氏が亡くなった雲隠ですでに終わっている」というご意見の方が数名いらっしゃいました。また、「何をもって物語は終わりとするのか」「週刊少年ジャンプの突然連載打ち切りのよう」「源氏物語にはいくつか終われそうなところがある。死ぬと物語は終わりになるので、光源氏の死は書かなかった。宇治十帖はリセットで、浮舟も死なない」という意見もありました。物語の終わり方についての皆さんの意見も様々で、大変興味深かったです。

■後半は、源氏物語全体についてのディスカッションを進めていきました。まず、源氏物語を以下の4つの構成に分け、最も印象に残ったものはどれかをお聞きしました(複数回答可)。

1.不遇の貴公子が女性遍歴を繰り返し罪に落とされ、許される王朝色好み物語(桐壺~明石)
2.光源氏が権力闘争の末、この世の栄華をすべて独り占めしていく物語(澪標~藤裏葉)
3.権力の頂点にいる光源氏が因果応報のように妻に裏切られ翳りを見せていく話(若菜~雲隠)
4.光源氏の死後、彼の息子らの話から、浮舟の話へ(匂兵部卿~夢浮橋)

1の桐壺~明石までを選んだ方が、7名。
  ・光源氏がキラキラしている
  ・キラキラして豪華なところが好き
  ・六条の御息所が、かわいそうであるが印象に残った
  ・明石の巻がいい

3の澪標~藤裏葉を選んだ方が、9名。
  ・光源氏が苦悩するところが印象的
  ・光源氏がスーパースターでなくなっていくところが印象に残った
  ・話の展開にインパクトがあり、因果応報が心に残った
  ・紫の上が亡くなるところが印象的
  ・紫の上の死後、光源氏がその死を悲しみ一年が過ぎてくところが非常に印象的だった

4の匂兵部卿~夢浮橋を選んだ方が4名。
  ・世の中はうまくいかない、そんな物語として宇治十帖が面白かった
  ・雲隠れまでずっと苦戦したが、宇治十帖からすらすら読めた
  ・浮舟の話が印象的

2の澪標~藤裏葉を挙げた方がひとりもいず、意外という声が上がりました。玉鬘の話や光源氏が権力を掌握していく展開、六条院の話など、振り返ると、澪標から藤裏葉も印象的だったり面白かったところがたくさん、皆さんから挙げられました。結局、源氏物語はどの部分もよかったといえます。4の宇治十帖は、話が暗くて好きになれない、読むのに苦戦したという方がいる一方で、面白かった、宇治十帖になってすらすら読めたという方もいて、評価が分かれました。

■次に、事前に配布した資料を参考に、紫式部は源氏物語で何を書きたかったのかを考えました。
「なぜ最後を浮舟の話にしたのか」「女の生き方を描きたかったのか」「資料にある橋本治氏が指摘した源氏物語の影の主役は夕顔-玉鬘―浮舟というのも納得できる」「本当は中流の女を描きたかったのか」「男と女の愛は永遠のテーマ」「負の感情をもって悩み苦しむさまざまな人を描きたかったのだろう」「人間の運命がテーマ」など、いろんなご意見が出ました。
「多くの登場人物の中に自分を見つけることができる」という参加者の方のご意見のように、たくさんの登場人物を描き分け、紫式部は人間を描いたといえます。登場人物の嫉妬や妬み、欲深さなどを非難したくなるのも、もしかしたら自分にもある嫌なものを見せられているからかもしれないという話にもなりました。
また、正編と宇治十帖では紫式部の書く動機や紫式部の状況が違っていたのではないかといった点でも話が盛り上がり、藤原道長との関係や平安時代の社会的背景など想像を膨らませました。

■最後に、全10回の読書会を終えて、源氏物語を読了した感想をお聞きしました。

・源氏物語を読了したとみんなに吹聴したい
・自分が読み終わることができるとは思わなかったのに読み終えられた
・今まで何度も読み始めては挫折してきたが、今回は読み切れた
・読書会がなければ挫折していたと思う
・ずいぶん前に購入していた源氏物語をようやく読むことができた
・月に一回ほかの人たちと一緒に読むので、読み終えることができた
・一人で読むより16人なら16人の読み方があり面白く、新しい視点で読めた
・一か月ごとにじっくり読めていろいろ考えることができた。考える過程で自分の再発見にもなった
・死ぬまでに再読したい
・読む年齢によってまた読み方が変わるような気がする
・本を読み切ったので漫画『あさきゆめみし』を読んでみたい
・源氏物語を読み終えた人は、だれかと語り合いたくなるものだということがわかった
・浮舟にこれからも頑張って生きてほしいと思った
・読み終えてもやはり葵上が一番好きだった
・読書会が毎月本当に楽しみだった
・完走した感じがあり、今年一番のトピック。感動している   などなど

登場人物400人以上、作中約80年にわたる1000年以上前に書かれた大河小説、『源氏物語』。
源氏物語54帖を読み切って、駅伝をチームで完走したような達成感と充実感でいっぱいです。読書会の皆さんと一緒に走り切った後に見えてきたものは、一人で読む『源氏物語』では見えない、もっと広くて奥深い、簡単には語りつくせない『源氏物語』の世界でした。多くの方がおっしゃったように読書会だからこそ、多くの視点・観点で読むことができ、毎回毎回、新鮮で新しい発見と驚きでした。もう一度、再読すれば、皆さんからいただいた多くの視点で、源氏物語の更なる深みを見ることができるような気がします。ぜひ近いうちに再読したい、そんな気持ちになった読書会でした。

これまで、ご参加くださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!!

【投稿者】NAOKO

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