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これまでの読書会

第55回考える読書会 『ジキル博士とハイド氏』

■参加者15名(男性5名、女性10名、うち見学者1名)でした。

 

二重人格の代名詞として名高い『ジキル博士とハイド氏』。タイトルが有名だけれど、実は読んだことがないという方も多いのではないでしょうか。読者会参加者も初読の方が多かったです。

岩波、創元社、光文社、新潮社、KADOKAWAなど多くの出版社から文庫本が出ていますが、訳本は決めず、お好きなものを選んでいただきました。

 

 

■解説では、「作者スティーヴンソンについて」「執筆時のイギリス」「作品誕生の背景」「パロディ・パスティーシュ作品」などについて簡単に説明しました。

 

 

■参加者の皆さんに、「最期はジキルとして死んだのか、ハイドとして死んだのか」について意見をお聞きしました。友人のアタスンが発見した死体はハイドでしたが、死の間際は誰も見ておらず、その記述はありません。皆さんの意見は様々で、どれも、一理あると考えさせられました。

 

★ハイドとして死んだ

・ジキル博士がそうなるように望んだ

・ハイドの姿として死んでいるから

・死ぬ前のジキルの手記を読んでいくと、手記を書く中でだんだんとハイドになっていっている

 

★ジキルとして死んだ

・ハイドだったらこのタイミングでは死なないと思う

・ハイドの性格では、自殺しない

 

★両方として死んだ

・ジキルとハイドは2人で1人で、人格としては同じだから

・身体はハイドだけれど、心はジキルで二人として死んだ

・ジキルとハイドは分かれていない

 

「この小説の中で二重人格をどのようにとらえるかにより意見が違ってくる」とある参加者がおっしゃったように、ジキルとハイドの二つの人格をどのような位置づけでとらえるかで、視点が変わってきます。

だんだんとハイドに乗っ取られていくジキルの身体。しかし、実は善であったジキルの魂・精神がだんだんと抑圧から解放され悪になっているのだ、とも考えられます。「ハイドはジキルの産みだした子」ととらえる方もいました。「ジキル=ハイドであり、同人格の一人の人間」の「善と悪という二面性を見せているだけ」、「ジキルという抑圧された人間の変身願望の表れ」など様々な感想・意見が出て、大変興味深いトークになりました。

 

 

■感想など

 

・二重人格の小説と知っていて読んだが、当時の人は「ジキル=ハイド」と知らないので、もっとミステリーとして楽しんだのだろう

・ハイドがなぜ嫌悪を感じさせるのか説明がなく、実体がない感じ

・最後のジキルの告白は、だんだんとハイドが出てきている

・二重人格の話だと思っていたら、薬で変身するので驚いた

・当時は薬で変身できるという、医療・科学の進歩の希望として読まれたのではないか

・『フランケンシュタイン』などと同じく科学者の暴走、科学進歩への皮肉ともとらえられる

・ジキル・アタスン側からの視点で書かれており、実際にハイドがどのような理由でその行為をし何を思い感じたかは書かれていない

・抑圧と社会規範と個人の欲望というモチーフはいつの時代も変わらない

・作者自身の父と子の抑圧からの解放が根底にあるのではないか

・社会規範で禁止・抑圧されているからこそ一線をこえたいという欲望が出てくるのだと思った

・自分も実は誰かが産み出したハイドかもしれないと思った

・当時の産業革命後のイギリス社会や科学の進歩、作者の生い立ちなどを考えるとまた違った読み方ができる

など

 

ジキルが溺れた「快楽」「非道」「不道徳な行為」とはどのような行為か、誰もが嫌悪するハイドの風貌とはどのようなものか。どれも具体的な記述がなく想像するしかないのが、この小説の特徴であり、書けない時代背景があったのかもしれないと、その時代のイギリスの社会状況、社会規範についても話が広がりました。

 

物語前半のハイドを追い詰めていく人物・アタスンについても注目しました。

アタスンは「生来けわしい顔立ち」の「陰鬱で」「気難しそうな印象」の弁護士で、ジンという安酒を飲むことから、あまり裕福な紳士ではないのではないか、もしそうなら、アタスンは高名な紳士であるジキルとどこで出会ったのか、など、アタスンの立場から物語を考えていくと、いろいろな新たな気づきがありました。

ジキルとアタスンの関係について、「友人」「友人以上」「恋人」など様々な意見が出て、話が盛り上がりました。「ジキルとハイドの関係を、アタスンは疑い嫉妬してる」と友情を超えた同性愛的な読み取りが出てきたり、「ジキルの遺言状の相続人が、ハイドからアタスンに書き換えられたのはなぜか」という新たなミステリーが浮かんできたりもしました。

 

世界的名作といわれ、何度も映画化され、日本でも多くの翻訳本が各社から出ている『ジキル博士とハイド氏』。読書会を終えて、納得。皆さんの様々な読み取り・ご意見を参考に、もう一度じっくり読み直したい本となりました。

非常に濃密な読書会になりました。ご参加くださった皆様、本当にどうもありがとうございました!!

【投稿者】NAOKO

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