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これまでの読書会

『三体』の感想と読書会の様子

全世界で2900万部を売り上げた『三体』。今なお売れ続ける理由が知りたい。世界中の言語に翻訳されてますます人気な訳が知りたい。おそらく、そこには、宗教・思想・文化・人種を越えた普遍的な何かが存在するはずだから。

 

そんな気持ちから特別企画として『三体』のSF読書会を企画することになった。「僕が日本人の中で一番たくさんのSF小説を読んでいる」(そう言い切れるところが凄い!でも実際その通りなのです)とおっしゃる書評家の冬木糸一さんをゲストにお招きして『三体』の解説をいただきつつ、フリーディスカッションを中心に、ゆるゆると2時間×3回の読書会を行った。今回冬木さんの解説なしでは、この読書会は成立しなかっただろうし、私は全3巻を完読することすらできなかったと思う。冬木さん、ありがとうございました。

 

■2022年2月23日『三体』参加者12名(男性8名、女性4名)

■2022年3月21日『三体Ⅱ・黒暗森林』(上・下)参加者9名(男性7名、女性2名)

■2022年4月29日『三体Ⅲ・死神永生』(上・下)参加者6名(男性4名、女性2名)

 

冬木さんのブログ ※基本読書

基本読書 (hatenadiary.jp)

 

壮大なスケールと単純なストーリー、愛すべきキャラクター、仮説と真実が絶妙に入り交じりつつも理論上は正しく筋の通った物理学や天文学。そんな盛りに盛った超豪華!華文SF、それが『三体』である。どの巻も胸焼けするくらいの情報が詰まっていて、どのシーンも儚さや美しさ、ギャグセンスも感じられ程よい抜け感もあるため、全3巻のボリュームでもスイッチが入れば一気読みできるはずだ。読んでいない方は是非ご一読いただきたい。私は全力で楽しみながら最後までわくわくして読み終えた。

 

全巻において『三体』のテイストはエンターテイメントSF娯楽小説なのだが、ラテン系の底抜けに明るい印象はなく、どちらかと言うと悲哀といった暗い印象が残る。華文小説ならではの世界観なのだろうか。

 

先ずは、超絶簡単なあらすじから。

 

■『三体』(一巻はプロローグでしかない)

地球の人間に嫌気がさした文潔が宇宙に救いを求めたら三体星からメッセージが届いた。400年後に地球に攻めてくるというのだ。

※個人的なお気に入りのシーン・・・ゴーストカウントダウン、VR三体ゲーム

 

■『三体Ⅱ黒暗森林』(上・下)(エンターテイメント満載で楽しめる)

地球では400年後に地球に攻めてくる三体星の対抗策として「面壁計画」を打ち立てて面壁者4名が選ばれる。そのうちの羅輯の作戦が選ばれて最終的に三体星人と対戦することになる。

※個人的なお気に入りのシーン・・・面壁者4人の生きざまと世論の反応、羅輯の謎のラブロマンス、史強と羅輯の良きバディ感、宇宙戦艦と水滴の戦い

 

■『三体Ⅲ死神永生』(上・下)(壮大な話になりすぎて読者は置きざりになる危険性が大きい)

羅輯の作戦をきっかけに、全宇宙から地球や三体星が狙われることになる。「面壁計画」とは別の「階梯計画」を打ち立てた程心が生き残り、次世界の宇宙を生き抜く。

※個人的なお気に入りのシーン・・・「階梯計画」で天明の脳を三体星に送るところ、美少女・智子の活躍、全地球人がオーストラリアに移住したりアントロポファジーを始めたりするところ

 

ちなみに全巻を通して一番のお気に入りのシーンは三巻の二次元平面に滑り落ちる場面だ。ラストに向けての儚さや切なさも感じられて余韻が残る。美しく残酷なシーンはポエジーだ。

 

また、読書会では、政治的な文化大革命を否定的に描くことは中国国内で許されているのか?作中の物理学や天文学は理論上一致しているのか?『三体Ⅱ』は「黒暗森林」なのに、なぜ『三体Ⅲ』は「暗黒森林」に変わっているのか?などの質問が出た。私は参加者の皆さんの鋭い質問についてゆくことに必死だったし、作中の科学用語等になると、もはやついてゆけず脱落状態だった。正直ちんぷんかんぷんだったがそれでも十分に楽しめた。

 

冬木さんは「フェルミのパラドックスに対する著者の答えがこの物語の柱だ」という。これには参加者全員が目から鱗だった。フェルミのパラドックスとは、地球外に文明がある可能性は高いと思われているが、なぜ今までその文明との接触がないのか、という矛盾をさす。『三体』を読んだ方は著者の答えに「なるほど!」と膝を打つことだろう。

 

本書は、羅輯が文潔の宇宙社会学の構想を会話の中で引き継ぐシーンにしろ、智子に対抗するため人間の脳内で戦略を立てる面壁計画にしろ、どこかサイエンステクノロジーよりも「人間の持つ内面の思考」の可能性に赴きを置いている気がする。どんなに最先端の科学技術を駆使しても人間の心の中は覗けないし予測できない。ゆえに政治もない、交渉もない、駆け引きもないサイエンステクノロジーだけの三体世界の戦略はもろい。人間が持つ「謀(はかりごと)」の世界は何物にも代えられない尊いものだし最強なのだ、と提唱しているのではなかろうか。

 

結局のところ『三体』がこれだけ売れた理由は純粋に面白いSF小説だから、なのだろう。オバマ前大統領も大絶賛したと帯には書いてあった。きっと私はオバマ前大統領とお友達になれる気がする。「ダーシー最高だよね」なんて、夜通し語り合えると思う。そんな機会あるんかい、と言う突っ込みはごもっともです。

 

【投稿者】KURI

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