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これまでの読書会

2月 『孤独なバッタが群れるとき』前野ウルド浩太郎

孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)

2月の活動探検レポートは「昆虫」に関する本の取材に行ってきました。


殆どの出版社が東京に本社を構えている中、この東海大学出版会は、 神奈川県秦野市にあります。

何ともつつましやかではありませんか。

 今回は、編集部の田志口さんに取材を試みました。

 

 


その人に会って声を聞き、たたずまいを感じて、始めてわかることがある。

この日、横浜では朝から小雪が舞っていました。見慣れた街並がうっすらと白く彩られてゆきます。

今回は読書会探検レポートということで、「孤独なバッタが群れるとき」の東海大学出版会・田志口さんへインタビューを試みました。田志口さんとは電話でしか話したことが無く、まったくの初対面で緊張と不安が入り混じります。どんな方なのでしょうか。出版社の人と聞いて私が想像するのは「舟を編む」の馬締氏です。果たして私のような知識に乏しい一般人と会話が弾むのでしょうか。待ち合わせの時間になるまで、あれこれ心配しましたが杞憂に終わりました。お話をうかがった田志口さんは、柔和な方でお話が上手く、お陰で大収穫の取材になりました。

はじめまして。

昨日は出張で和歌山にいました。コウモリを研究している方に会ってきたのですよ。夜行性の生き物なので生態を観察するのは大変のようです。 

軽くご挨拶のあと、いきなりコウモリの話です。体の内側から興味がわきあがります。洞窟やトンネルで若き研究者がコウモリと格闘する珍事件話で盛り上がりました。そこからササラダニ研究で有名な青木淳一教授のお話へと飛びます。教授お手製のイラストTシャツや、人間に無害なダニの生態、博士の熱い友情の話など、酔狂したダニ博士の「ダニの世界」は楽しく、その世界観は美しく、すっかり夢中になりバッタの話にまでたどり着けません。

このままではお昼になってしまう、と危機感を感じ、ここでやっと名刺交換です。いよいよ本題!と思いきや、その前に読書人恒例(?)の「カバンの中にある本を拝見タイム!」になりました。

僕はこれです。

と田志口さんは吉田武さんの新刊本を取り出しました。吉田武さんと言えば東海大学出版会の「新装版オイラーの贈物」が有名です。本書では世界一美しいオイラーの法則をわかりやすくかつ丁寧に書かれています。(と言っても私には難しい)「私は「完全なる証明」や「フェルマーの最終定理」が好きです!」と話したところ、まんまと食いつきました。そこからしばしの間、サイエンス本談義に花が咲き、またまた大盛りあがりです。やばし!本当にお昼になってしまいます。

本題です。本題!そうです、バッタです!まずは、いける本・いけない本大賞おめでとうございます

ありがとうございます。

実は大賞をとるなんて思っていませんでした。選考の段階で、ほとんどの方がこの本の存在を知らなかったようです。ある一人の選考委員の方が強く推薦してくれて、読んだらこれは面白いと選考委員会の中で瞬く間に話題になり、大賞をいただきました。授賞式の際には、小見出しが特に絶賛されました。 

わかります。「あの娘にタッチ」「オスにモテるがメスが好き」って(笑)。本当にバッタの話なのかと疑いたくなりますね。

はい(笑)。でもそこは数々の優れた論文で名誉ある賞を受賞している前途有望な博士・前野さんです。サバクトビバッタの相変異の謎を解き明かす検証は読みごたえ充分で、その成果のグラフなどは繊細かつ芸術的です。そこで小見出しとのギャップが良いアクセントになっています。前野さんが真っ直ぐに研究に向き合う姿勢から「バッタへの愛」を読みとってもらいたいですね。でも夜遊びが原因で、研究が疎かになったりして(ちなみにこの時の小見出しは「アゲハの誘惑」。昆虫の、ではなく新大久保にあるクラブ「アゲハ」である)人間臭いところもあり、個人史としても小ネタ満載です。彼の人としての魅力は会ってみるとより強く感じますよ。実際、論文やデータ研究の作業は地味で多様な作業が多く、想像以上に大変だと思いますが、前野さんの前向きな性格からモーリタニア(現在の研究拠点)でもみなさんに愛されて、充実したバッタライフを送っていると思います。

ユニークな著者を発掘した東海大学出版会編集部に大いなる拍手ですね。

フィールドの生物学シリーズは「若い(自称も可)研究者」に執筆をまかせている本です。今回、田中誠二博士にお声をかけたところ、4人ほどご紹介を受けました。そのうちの一人が前野さんでした。秋田県出身の純朴さ、笑いの着眼点やそれをパフォーマンスで表現できるセンス、そして何と言っても研究に打ち込むひたむきさが彼の魅力だなと感じました。

作品の良し悪しに関わらず、自然科学の生物の本は残念ながらあまり売れないといわれています。売れないから出版社も扱わない。

そうなんです。ですが、私たちは数多くの学術的な本を世に残していきたいと思っています。優秀な書き手を早くから発掘して育てていくためにも、これからも積極的に出版していきたいと思っています。

(何と崇高な精神でしょう。)「孤独なバッタ・・・」を読むとその危機的状況を救ってくれる一冊になるのではと思ってしまいます。本当に面白い!!

ありがとうございます。前野さんの「バッタへの愛」がそうさせているのでしょうね。写真ひとつとってもバッタが好きでたまらない感じが出ています。一途に、一心にシャッターを押した結果です。ですが製作・編集にはグラフィックデザイナーの弟さんも手伝っていて、計算し尽くされた面もあるのです。絶妙なバランスで仕上がっています。

・・・と、この先から本の内容に深く入っていきますが、この続きは読書会でプレゼンテーションしたいと思います。

その後、田志口さんはこれから出版される本・雪水微生物の話や、電子書籍についての今後の試み・たとえば電子書籍の場合、動画を用いることが可能なので生き物の図鑑などは今まで以上に楽しんでもらえる、など興味深いお話が沢山聞けました。

ふと窓に目を移すと、雪も止んで雲の切れ間から日差しが差し込んでいます。朝に比べて横浜駅の人通りも多くなり、街に活気が出てきました。

田志口さん、長時間お付き合い頂き本当に有難うございました。

今後、田志口さんや前野さんを招聘できるような読書会になるよう頑張りたいと思います!!

田志口さん

オシャレな田志口さん。とっても笑顔。

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