REPORT
これまでの読書会
第42回考える読書会 『源氏物語』第3回(須磨~松風)
■参加者10名(男性2名、女性8名)。
『源氏物語』を毎月10回にわけて読み進めていく企画の第3回目。訳者は決めずにお好きなものを読んできていただいております。今回からの参加の方もいらっしゃいました。
■皆さんに、今までのところで好きな登場人物を男女1人ずつ挙げていただきました。
好きな登場人物(男性)
・朱雀帝 3名
・明石の入道 2名
・光源氏 2名
・頭中将 1名
好きな登場人物(女性)
・明石の君 2名
・末摘花 2名
・空蝉 1名
・六条の御息所 1名
・藤壺 1名
昨年の源氏物語読書会でも同じ質問をしましたが、昨年と違うのは、明石の入道がダントツの1位だった昨年に対し、今年は朱雀帝が1位だったことです。「朱雀帝は誠実で、平和な時代なら最高の天皇ではないか」「桐壺帝が出てきてしゅんとしてしまうところがいい」など誠実で優しく弟の光源氏をリスペクトしているところに注目されていました。また、昨年は名前の挙がらなかった頭中将も、「再読すると、頭中将は男らしく、須磨に危険を冒してでも光源氏に会いに行く男前なところがたまらない」と高評価でした。
好きな女性の登場人物は、昨年同様、明石の君と末摘花がトップで、サブキャラの個性的な末摘花は、相変わらずの人気です。
皆さんの好きな登場人物を聞いていると、自分では気づかなかった登場人物のあらたな魅力や、読み落としていたその人物にまつわるエピソードを知ることができます。それも、読書会の楽しみです。
■次に、事前にお配りしておいた資料で各巻ごとに簡単な解説をして、皆さんのご感想・ご意見を聞くという形で読書会を進めていきました。特に盛り上がったのは、「須磨・明石」と「絵合」の巻です。
■須磨・明石の巻で、光源氏が弘徽殿・右大臣の策謀を避けるように自ら須磨へ下ります。内容的には地味で、「須磨源氏」という言葉があるように、この辺りで長編『源氏物語』を読むのを挫折するといわれているところです。昨年にくらべ、この巻について話が盛り上がったのは、興味深いです。
・須磨へ行く前に花散る里、朧月夜、藤壺、紫の上などとの別れのあいさつのやり取り
・須磨での都の人々との文のやり取り
・須磨の鄙びた海を見渡せる景色の中、光源氏と惟光・良清などの御つきの者たちが歌を詠み合うシーン
こうした点にしみじみとした趣を感じ、弘徽殿・右大臣家が権勢を誇る朝廷で、いつ都に戻れるともわからない光源氏の心境に寄り添った方が多いようでした。
一方で、明石に移りって明石の入道の豪華な邸で暮らし、明石の君と関係を結ぶ光源氏に対して、たった3年くらい都を離れているだけで、本当の苦労とは言えないというご意見もありました。確かに、大宰府に左遷された歴史上の菅原道真や源高明らに比べると、光源氏の状況は厳しいといえないのかもしれません。光源氏の対処のうまさ、運の良さを表しているのでしょうか。
好きな登場人物の2位になった明石の入道について、そのユニークであくの強い、そして一族の悲願を果たそうと必死かつ滑稽ともいえる行動に、様々なご意見・ご感想が出されました。
■絵合の巻では、光源氏の提言により、頭中将の娘・弘徽殿女御と光源氏が後見している梅壺女御の双方に分かれて、冷泉帝の御前で絵合の行事が行われます。どちら側も優劣つけがたく勝負の決着がつかなかったところ、最後の一番で光源氏の須磨の絵日記が提出され、人々はその絵に感動し、梅壺側が圧勝します。
・須磨まで来てくれた頭中将への遠慮・配慮もなく、後見している梅壺を勝利させようと秘蔵の絵日記を出さす光源氏は策略家
・光源氏の反体制・反藤原戦略が進んできている
・最後に、光源氏の須磨の絵を出せば、そちらに軍配を上げざるをえない、みんな忖度する
などのご意見・ご感想の通り、光源氏の策謀家としての一面が見える巻であります。
一方で、「須磨の内面・心情のすべてを出した絵で、完成度が高く本当に人を感動させるものだったのでは」と須磨での光源氏の心情を思い、絵そのもののすばらしさに注目される意見が出ました。それに納得される方もいらっしゃり、「光源氏の絵はどんな絵だったのだろうか」と皆さんがそれぞれ思い描く絵についてのお話が興味深かったです。
■ほかに、須磨・明石から光源氏が復帰すると掌を返すように、光源氏のもとに男女・身分の上下を問わずやってくるというところについて、いつの時代も変わらない人々の「現金な行動」「あさましさ」について、意見が交わされました。
■また、光源氏の夢枕に立った桐壺帝のセリフ「桐壺帝が気づかぬうちに犯していた罪」とは何かについて、「光源氏と藤壺の恋心に気づかなかったこと」「桐壺更衣を死なせてしまったこと」など様々なご意見が出されました。
■「光源氏の人物像がよく見えてこない」という感想に対して、「光源氏は鏡で、光源氏を通して女性がどのようなことを思い、行動するかを示し、いろんな女性を映し出している」という新しい視点のご意見が出されました。そう考えると、実は『源氏物語』は光源氏という一人の男を描いているのではなく、様々な女性を描き出している物語なのかもしれません。
■「若いころのキラキラした光源氏が終わってしまい寂しいけれど、俗物の光源氏を見るのも楽しみ」と参加者のおっしゃる通り、「政治的手腕を発揮する」光源氏が徐々に見えてくる回でした。次回以降、権勢家として行動する光源氏にも興味を惹かれます。
今回もとても刺激的な回でした。
ご参加くださった皆様、本当にどうもありがとうございました!!
次回もどうぞよろしくお願いいたします。
また、4回目以降からのご参加、大歓迎です。お待ちいたしております!
【投稿者】NAOKO